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教育 ページ38

「私の父は、どんな人だったんですか。」
そう言ってきたのは、まだ7歳ほどのAだった。
この頃は丁度、作法教育のために敬語を使い始めた頃だった。
彼女の成長を喜ぶ一方、もう渾名では呼んでもらえないのかと寂しく思った記憶がある。
何より可愛く思っているAに組頭として時には厳しく接しないといけないことには時折胸が痛んだ。

「…強い人だったよ。戦闘の腕は一流だった。」
「…じゃあなんで、父は死んだんですか。」
どうもこういう話は苦手だ。
人の決して良くはない面も見続けてきた私には「子供にとって良い」返答をするのは至難の業だ。
「…どうして、そんな事を聞くんだい。」
「…尊奈門に、言われたんです。なんで幼い時に亡くした父の事なんか気にするんだ、って…」
なるほど、確かに、そんな事を言われたら動揺するのは理解できる。
しかし同時に、身近な人を亡くした事がない8歳の子供に、それを慮れと言うのも難しいことではあると理解できる。
それに彼なりの気遣いの言葉だった可能性もある。
こればかりは尊奈門を一方的に叱ることは出来ない。
「Aは、父のことを覚えてるのかい?」
「えぇ…ほんの少しですけど…」
正直、これには驚いたが、やはり何か衝撃的な出来事というのは幼くても鮮明に覚えているのだろう。
そんな背景を考えると、この質問への返答には十分に気をつけないといけないことは明白だった。
「…無理して忘れなくてもいいんだよ。君よりずっと長く生きている私にだって、忘れられない人は沢山いる。思い続けることは悪い事ではないよ。その人のことを大事にしてるっていうことだからね。」

嬉しそうな顔で、しかし涙を流す彼女を見て、どんな反応をすればいいのかわからなかった。
彼女がどれだけの思いを抱えて生きているのか、考えが及んでいなかったと痛感した。
胸が痛んだ。
気がつけば、彼女を抱きしめていた。
彼女は嫌だと首を振った。
「組頭、は、そんな事、しません…」
まだ子供なのにそんな事を、と思ったが、恐らくそんな事は彼女が一番言われたくない事だろう。
彼女は彼女なりに一生懸命に成長しようとしているのに、それを否定するようでは、父としても組頭としても失格だと思った。
「じゃあ、今はただの『昆奈門』だ。」
「…なに、それ、ずるい…です…」
「大人だって、時には仲間に辛い事を溢すものだ。その為に私達は一緒にいるんだからね。」
だから、泣いてもいいんだよ、と、私は強く彼女を抱きしめた

自分自身→←(※作者)



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Nagisa Honda(プロフ) - まろんさん» まろんさん、コメントありがとうございます。雑渡さん…良いですよね…思い返せば、私も多分初推しの座を奪われてました笑。これからも書きたいことを書き殴っていくので、もし好みが合いそうでしたらご覧いただけると嬉しいです。 (1月13日 0時) (レス) id: f3e20353fb (このIDを非表示/違反報告)
Nagisa Honda(プロフ) - 上衣さん» 上衣さん、コメントありがとうございます。実は私も映画で一気に組頭にハマりました…はちゃめちゃに強キャラでスマートでかっこいいですよね…! そんな組頭をちゃんと表現できているかかなり不安ですが、これからも気が向いた時に更新頑張ります! (1月13日 0時) (レス) id: f3e20353fb (このIDを非表示/違反報告)
まろん - こなもんさんは私の初恋泥棒なので見ててキュンとします!途中の作者様の気持ちにめちゃ共感しました! (1月11日 2時) (レス) id: 45a7f9af8d (このIDを非表示/違反報告)
上衣(プロフ) - 途中、作者様のお気持ち「雑渡さんのこう言う一面見てみたい」VS「雑多さんはこんなことしない」VSダークライに笑ってしまいましたw 確かに「雑渡さんはこんなことしない!でも、こんな一面をみてみたい!」と私もなります。続きをとても楽しみにしております。 (1月10日 20時) (レス) id: 474ffd7195 (このIDを非表示/違反報告)
上衣(プロフ) - 初めまして。去年、雑渡さんの存在を知り、今回の映画で沼にハマってしまった者です。終始、心の中で「キャーキャー」(赤面)しながら読ませていただきました。続く (1月10日 20時) (レス) @page11 id: 474ffd7195 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Nagisa Honda | 作成日時:2025年1月9日 11時

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