月夜 ページ29
「…寝れない…」
明日はせっかく久しぶりの休日だと言うのに、なかなか寝付けない。
「…最近、色々あったからな…。」
組頭はなんか変だし、仕事もそれなりに忙しい…
それに、今夜ついさっき言われたが、砦の兵糧の数から判断して、明日は黒鷲隊がドクタケ領に偵察に向かうと言うことだった。
偵察の結果によっては、最悪の場合ドクタケと事を構える事になる。
「ドクタケ…戦…か、」
「決めた。滝、見に行こう。」
いかんせん、こう言う時にただじっとしているのは苦痛に感じる性分なのだ。
私服に着替えて城を飛び出した。
夜は城門の検査が厳しいので、裏側の塀が低い箇所から乗り越えて裏山に出る…小さい頃に遊びに抜け出す時にもよく使った常套手段だ。
「…ますます寒いな…」
冬特有の、空気が澄み、月の明かりがよく届く夜だ。
こんな時期に戦になれば、それこそお互いに消耗戦になり、犠牲が増えるだけだ。
「でもお前、父さんのこと覚えてないんだろ?」
「えっ…うん…」
「ならそんなに気にしなくて良いじゃないか。」
そう言って彼は笑った。
今考えると、あれは子供なりの、尊奈門なりの気遣いだったのかも知れない。
私は、父が亡くなった原因である戦を、戦をしようとする人間を、つい恨んでしまう。それを相談した時の言葉だ。
彼なりに「そんなに重く考えても仕方ない」と言おうとしたのかも知れない。
あの時は「覚えている」と言えなかったが、私は確かに父の最後の姿を覚えている。
恐らく私の最も古い記憶だ。
父の忍装束はぼろぼろで、顔の傷からは血が流れていた。
でも彼は笑っていた。私に心配をかけまいとしていたんだろう。
しきりに「大丈夫だから」と言いながら、足早にどこかに向かい、時々追手から身を隠した。
そうして辿り着いたのがタソガレドキだった。
「…やっぱり、憎まないなんて、できないよな。」
人の性と言えばそこまでだが、やはり戦なんてないに越したことはない…少なくとも、タソガレドキにそんな事をして欲しくはないのだ。
それが今、少しずつ実現性を増していると考えると、やはり気分は優れなかった。
そんな時期に「子供を残さないと」って言ってくるなんて、組頭は何を考えているんだろうか。
「…まさか、ね…」
あの人に限って、そんな場合は想定をする意味はない、よね、組頭。
「随分登ったな。」
裏山の木々の間を抜けて、随分と歩いた。
「確かここら辺に…あった。」
急に空間が開けたと思ったら、目の前に大きな滝が現れた。

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Nagisa Honda(プロフ) - まろんさん» まろんさん、コメントありがとうございます。雑渡さん…良いですよね…思い返せば、私も多分初推しの座を奪われてました笑。これからも書きたいことを書き殴っていくので、もし好みが合いそうでしたらご覧いただけると嬉しいです。 (1月13日 0時) (レス) id: f3e20353fb (このIDを非表示/違反報告)
Nagisa Honda(プロフ) - 上衣さん» 上衣さん、コメントありがとうございます。実は私も映画で一気に組頭にハマりました…はちゃめちゃに強キャラでスマートでかっこいいですよね…! そんな組頭をちゃんと表現できているかかなり不安ですが、これからも気が向いた時に更新頑張ります! (1月13日 0時) (レス) id: f3e20353fb (このIDを非表示/違反報告)
まろん - こなもんさんは私の初恋泥棒なので見ててキュンとします!途中の作者様の気持ちにめちゃ共感しました! (1月11日 2時) (レス) id: 45a7f9af8d (このIDを非表示/違反報告)
上衣(プロフ) - 途中、作者様のお気持ち「雑渡さんのこう言う一面見てみたい」VS「雑多さんはこんなことしない」VSダークライに笑ってしまいましたw 確かに「雑渡さんはこんなことしない!でも、こんな一面をみてみたい!」と私もなります。続きをとても楽しみにしております。 (1月10日 20時) (レス) id: 474ffd7195 (このIDを非表示/違反報告)
上衣(プロフ) - 初めまして。去年、雑渡さんの存在を知り、今回の映画で沼にハマってしまった者です。終始、心の中で「キャーキャー」(赤面)しながら読ませていただきました。続く (1月10日 20時) (レス) @page11 id: 474ffd7195 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nagisa Honda | 作成日時:2025年1月9日 11時