世界一仲の悪いカップルの日常 ~黒の時代~【文スト】

日常1。 ページ2

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ある日の深夜十一時。



酒杯の氷がカラン、と涼し気な音を立てた。


馴染みの酒場(バー)は紫煙を漂わせ、小洒落たピアノの音色が乾いた空気を潤す。


私はその落ち着いた雰囲気に身を溶かし、酒杯の香りに浸っていた。



「あのさあ、」



右隣から聞こえる少年の声で私の意識は呼び戻される。


『なンだ』



彼の名は太宰治。


地下組織ポートマフィアの歴代最年少幹部だ。



一見何処にでも居そうな若き少年。

然し彼が得た功績や利益はその代償と云うべきか、包帯や頬に貼られた医療具(ガーゼ)が物語っている。



“太宰の敵の不幸は、敵が太宰であること”

そういう云い習わしが組織内であるくらいだ。


太宰治は、マフィアになる為に生まれてきたような男。



そんな彼は不機嫌そうにカウンターに突っ伏し、酒杯を指で弄んでいる。


「如何していつもいつも君がいる訳。付き纏うのもいい加減にしてくれないか」


酒杯の氷が浮き沈みを繰り返す。


『はァ、？』


正面に向いていた身体を椅子を回転させ右側に向け、太宰を見下ろす。


『誰も手前のこと付き纏ってねぇしそんな事したくもねぇよこの勘違い野郎。

手前こそ私に付き纏ってんじゃねぇの』


「はあ？」


太宰は身体を起こし、私と向き合う姿勢をとる。


「今の言葉、そっくりそのまま返そう。

誰も君のことなんて付き纏いたくないね。
誰がゴリラなんかと一緒に行動したいと思う？恥をかくだけだよ。」


『ンだとコラ、私だって手前みたいな糞鯖とは行動したくねぇんだよ！
魚類は魚類らしく海へ帰れそして死ね！！』


「あーあー五月蝿い、これだから人外は」


『ちゃんと見てみろ私は歴とした人間だ！！』



売り言葉に買い言葉。いつも通りの口喧嘩。

私は太宰(コイツ)が嫌いだ。

それは奴にとっても同じこと。



私達は顔を合わせれば言い合いが始まるような、そんな仲だ。


簡単に云うとするならば、“仲が悪い”。


どうしても太宰(コイツ)とは気が合わないのだ。



口論を続けていると、ギシギシと心地好い音がたった。



入口の方を見ると、そこにはベージュ色のコートを着た、赤髪の男が酒場へ降りてきたのが判った。






「＿＿＿やァ、織田作」






太宰が嬉しそうに云った。

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