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*211話「過去編〜消えたものと残ったもの〜」 ページ37

真赭さんと藍さんが何か言っているのが聞えた。
いや、聞こえていなかった。

私の視線は雪椛先輩の左腕しか捉えておらず、
聴覚は失ったかのように何も聞こえなかった。


わなわなと震える唇。
今にも崩れ落ちそうな膝。
酸素が回っていないのかふらふらと立ち眩みが起きる。


徐々に視界がぼやけ、雪椛先輩の輪郭を捉えられなくなった瞬間、
パアアアンッという音ともに左頬に痛みが走った。

よろけてそのまま床に倒れそうになったところを結良と叶羽が支えてくれた。

私は何が起こったかわからず、熱を持った左頬に茫然と触れた。
そして、視界の端で捉えた手を辿る。

はあはあと肩で息をする先輩。
その眼は涙がたまり、憎しみがはっきりと込められていた。


「あんたのせいよ……」


地をはうような声が病室に響く。
そのとき、やっと私は周りの声を拾い始めた。


「あんたのせいよ!! あんたさえ、いなければ
雪椛は左腕を失わずにすんだのよ!?
あんたなんかを庇ったために雪椛は!!」


まくしたてるように一気に話したと思えば、泣きだす先輩。
泣きだした先輩を慰めながら、
他の先輩たちも憤怒と憎悪のこもった目を私に向けた。


元々、先輩たちにとって私は邪魔でしかなかった。

結良のように天才でもなければ、背が高いわけでもない。

口数も少なく、主張もしない。

無表情で愛想もない。


そんな子がなぜ千鳥山にスカウトされたのか。

大した実力もないくせに、煩わしいだけの私の存在は
先輩たちにとって今すぐにでも消したい邪魔な存在。

そのチャンスが今巡ってきた。


それを理解した……。


「災いしか起こさない疫病神なんてここには必要ないのよ」

「だいたい、あんたみたいのがこの部活でやっていけるわけないじゃない」


死にもの狂いでもいい。
誰より辛い目にあったっていい。

ここでバレーがしたい(・・・・・・・・・・)

そう思っていたから、前は言い返せた。
でも、今は……。


「それはいま関係ないだろ!!」

「ここぞとばかりに当たらないでください!!」


何も言えずにいる私に代わって、結良と叶羽が言い返してくれた。

でも、もう私にはその言葉が聞えていなかった。

焦点の合わない目が、あの人(・・・)を捉える。
大好きで、憧れのあの人を……。

その瞬間、私は口にしていた。


「……私、バレーやめます」


その言葉を告げるのに何の躊躇もなかった……。

*212話「過去編〜消えたものと残ったもの〜」→←*210話「過去編〜大雪日と鮮血の赤〜」



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星蛍(プロフ) - 麗さん» 視点のほうは自分でも常々思っていたので、今目次のほうに表示するように付け加えています! p.43の件は言わんとしていることはちゃんと伝わりました! そうですね。書き直しておきます。 (2020年11月22日 14時) (レス) id: 1ee6b4a9bd (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 43ページ はそれぞれ の後の ウイングスパイカー と ベストセッター 書く順番逆の方がお話の流れ的にしっくり来ると思います。 夢主がセッターなのに ウイングスパイカー に思えてしまうので、、、、 上手く伝えられなくてすみません (2020年11月12日 22時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 一気にお話を読んでいる途中なのですが、夢主視点じゃない時、誰視点なのか分かりづらくて読みづらいなと感じてしまいます。 (2020年11月12日 22時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
星蛍(プロフ) - 紫野さん» ありがとうございます!!更新頑張ります! (2015年12月31日 12時) (レス) id: 60a59e3ad2 (このIDを非表示/違反報告)
紫野 - 面白いです!続き楽しみにしてます! (2015年12月31日 12時) (携帯から) (レス) id: 5ae5725b61 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星蛍 x他1人 | 作成日時:2015年11月9日 21時

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