太陽の当たる場所

夢の途中 25 ページ49

ニカは少し怒った顔で

「体温計は？冷えピタは？毛布は？」

次々に聞いてきて

「あとタオルと…保険証と診察券と着替えと」

私が答える隙を与えてくれない。



「ご飯は食べたの？」



そこでやっと間が出来たけど
何から返したらいいか分からなくて。



何も答えない私に

「ごめん、俺のせいで…」

ニカがものすごく悲しい顔をする。



「ニカのせいじゃないよ」

「でも」

「自己管理が甘かったの」



そう。

他にいくらでも方法はあった。

雨宿りするとか
叔父さんの家に行くとか。



なのに帰ったのは私。



「だから、もう今日は帰って寝て？」

フラフラベッドに向かうと

「無理だよ、ビール飲んじゃったし。つーかそれもごめん、冷蔵庫の飲んじゃった」

ニカが申し訳無さそうに謝ってくる。



ビールくらい構わないけど。

ニカが帰れない方が困るよ。



「教習は？」

「午後からだもん」



私の質問に子供みたいな言い方でニカが返す。



「で？体温計は？」

ニカはなんだかまだ怒ってるから

「………ここ」

ベッドの小物入れから取り出して脇に挟む。



「冷えピタは冷蔵庫にあったよね、毛布は？」

もう我が家の冷蔵庫を知り尽くしてるニカは
冷えピタが冷蔵庫にあったのを思い出したらしい。

「毛布はそこのクローゼットの1番上」

「ん」



確か収納袋に入ってたはず。

「あ、これか」

ニカがそれを見つけて取り出そうとして
ドサッと何かが落ちた。



「うわ！ゴメン」

「ううん、適当に乗せてるから」



逆に申し訳ない。

さすがにそんなとこのものを誰かに取らせる想定なんてしてないし。



ニカは落ちてきたものを拾い上げて

「………レーシングチーム？」

読み上げる。



あ。

それは…



「……一時期、所属してたの」

「へー！Aちゃんレーサーなの？」

「技術屋さん」



もう忘れなきゃって思って
捨てようとしたのに捨てられなくてそのままだった。



「すごいじゃん！カッコイイね！」

「…全然」

「もう辞めちゃったの？」



ニカの言葉に泣きそうだった。



辞めたくて辞めた訳じゃないよ。
辞めなきゃだったんだよ。



そう言いたかった。

でもそれも悔しくて。



「だってこれ俺も知ってるチームだよ？すごいじゃん！」



ニカの無邪気な感じが熱のせいでイライラした。



「ねぇ！もったいな…」

「ニカごめん。寝るから」



話を切った。



ごめんニカ。

ニカは悪くないけど今はニカと話していたくない。

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