キャンバス (ページ32)

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噂話と悩みごととの続き

人見知りのせいでバラエティー番組の出演が不安だったこと、昔オファーをもらったときに何度も断ってしまったこと、いつの間にか声がかからなくなってしまったこと。

今だったらどんなお仕事も断らないで出演するのになあ、と、ずっとひとりで悩んでいたことを打ち明けた。

そうすると「あら！」と目を見開いたスタッフさん。
「今回は主演ですもん。鴻上さん、番宣、出ませんか？」

「ええ？吉沢さんがひとりで出てくれそうです」
「キービジュアルでは鴻上さんの名前が一番左上に載ってるんですから！」
「お話があれば、いいんですけどね…」

うーんと悩むようにしていると、スタッフさんの顔はみるみる煌めいて、
「私に任せてください」
「ええ？」
「いい作品、作っていきましょうね」
先程よりももっとやる気に満ち溢れたような表情に変わった。

＊

クランクインから数日が経ったある日。
依然としてマネージャーとしては少々派手な衣服に身を包んだ百田に呼び止められたわたしは、「どうしたの？」と駆け寄った。

「実はあなたが電子機器に弱いこともSNSのまめな更新が苦手なことも全部承知の上で、お仕事として頼みたいことがあるのよ～」

詳しい話を聞くと、現在撮影中の『ほしとくず』の告知用に設立された公式のSNSに、不定期でわたしが個人的にカメラを回してメイキングや制作秘話、出演者インタビューの動画を投稿してほしい、とのことだった。

引き受けることを前提に、それでもどうして？と不思議にそうにしていると、百田はさらに説明を続けてくれる。

「コウちゃん、ディレクターさんとなかよしなの？」
「ディレクターさん？そういえば現場でまだしっかり挨拶できてないかも…？」

基本的には現場にいるスタッフさんには全員にしっかり挨拶回りをするけど、ディレクターだと名乗る方を見かけた覚えがなかった。

「実はディレクターさんから名指しでの依頼なのよ～。主演の中で撮影中に現場を回るのは大変でしょうけど、引き受けることは伝えておくから。がんばってね！」

それじゃあね～と手を振りながらその場を離れた百田。
ディレクターから名指しで、と言ってた。
心当たりと言えば…初日に少しだけ話したあの女性だ。

あの日以来なかなか現場では会えずにいたけど、思い返せば普通のスタッフにしてはとっても気さくに話しかけてくれたし、とってもわたしのことを評価して持ち上げてくれていたような気がする。
もしかしてあの人が…？

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