キャンバス (ページ24)

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続き

「A」
「はい」
両肩に手を置いて目線を合わせてやると、さっきまで威勢のよかったAは肩をすくめて小さくなり俯いた。
空気が一変し、俺が怒ってることに気がついたのだろう。

「あのなあA。それは、どういうつもりで言ってるの？」
「えーっと、」

優しく問いただすとAは俺から目を逸らした。
俺が知ってる頃から目の前の彼女は、しどろもどろになると大きな黒目がきょろきょろとせわしなく動く。細い肩を強く掴んだ俺はしっかりとAの顔を覗き込んだ。

「A、こっち。俺の目、見て、ちゃんと」
「なんにも、考えてなかった、です…」
う…と顔を真っ赤にして目を見るAを押さえつけている今の俺は、さながら悪いことをした子どもを叱る親に見えることだろう。

数年前も同じようなことがあった。
ドラマの撮影が終わって全員で打ち上げをした帰り、Aは今みたいに考えなしでひとり暮らしの自分の家にむやみに俺を誘ったんだ。

父親、兄弟がおらず中高を女子高で過ごし、大人になる前に上京して芸能界に足を踏み入れたAは男性への警戒心というものが極端に欠落しているのだと以前に百田さんから聞いた。

きっとしっかりわからせてやらないと、この子には男の危うさを理解してもらえないような気がして。

「Aは前に俺が言ったこと、もう忘れちゃった？」
「覚えてます、」
「ばーちーさんに怒られたよね？」
「環奈ちゃんにも怒られた…」
「賢人にも？」
「…怒られた！」

子どもみたいに意地になるAを見て笑みが零れそうになる。いけない、俺は今怒ってるんだからな。しっかりしろ。
自分と葛藤していると目の前のAが自分から口を開いた。

「もう！あのね、亮ちゃん！」
「ん、なに？」
「たしかに今も昔も何も考えてなかったです。でも！…けど、いま、考えたから、聞いて」
「うん？」

「亮ちゃんだったらだいじょうぶかなーって、思って、あの…だから誘ってみました…」
おそらく自分の中で百点満点の回答のつもりだったのだろう。

食い気味に話し始めたわりには、俺の顔色を窺って自信を無くしていったようで。
そのままえへへ、なんてごまかすように眉尻を下げながら笑うもんだから、肩を押さえていた手をするりと両肘へ移動させた俺はそのまま腕を掴んでAを引っ張った。

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