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私は支配人から鍵を受け取り、安吾が借りていた部屋に向かった。
支配人の話では、安吾は半年ほど前にその部屋に前払いで住みはじめたそうだ。
しかし職業柄か、滅多に部屋に戻ってくることはなく、数日に一度、ふらっと現れて夜を明かし、また去っていくのだという。
他の人間を部屋に入れたことはかつて一度もないように見受けられる、と支配人は云った。
部屋は清潔なワンベッドルームスイートだった。
清掃が行き届いており、塵ひとつない。
パーラーには生活家具はほとんどなく、小さな本棚に各地の郷土資料と古い小説が幾つか収められていた。
天井にはよく見ないと気付かないほど巧みに隠された通気孔があり、換気扇がほとんど音もなく回転していた。
黒い木製の丸椅子がひとつ、部屋の隅にひっそりと控えていた。
ベッドルームには小ぶりなデスクがあり、皺ひとつないシーツのかかったシングルベッドがあった。
枕元の読書灯の下には、百年ほど前に芸術的な数式を残したひとりの天才数学者についての伝記が開かれて置かれていた。
いかにも安吾らしい、知的で清潔で、生活の様子をちらりとも想像させない無機質な部屋だった。
私は部屋の中央に立って、じっと周囲を見渡した。
何かが私の脳に引っ掛かっていた。
ごく些細な何か。
普段なら気にも留めない何か。
「坂口安吾、マフィアの情報員」
私は声に出して云ってみた。
「インテリでミステリアスな男。
誰も君の正体を知らない」
もちろん誰も返事をしなかった。
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ミュウ=ムー(プロフ) - 教えてくださり、ありがとうございます。 (2018年9月20日 19時) (レス) id: 1429768fb6 (このIDを非表示/違反報告)
kana(プロフ) - オリジナルフラグははずさないといけませんよ。違反行為なので (2018年9月20日 19時) (レス) id: 8d50bc542b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:皇帝ペンギンM← | 作成日時:2018年9月19日 21時