マイ探偵

十話 ページ15

「やめて………下さい…」

「何でしょう」

「私、わ、私は…やって、やって…い、いな、いない…です。やっていないですっ…」

「他にも証拠は出揃っています。それでも嘘をつきますか？」

「で、でも…やって…」

「まあ、良いんですけどね。とやかくは言いません」

「え？」

「だって、人間は、嘘をつかないと死んでしまいますから」

治美さんは顔を強ばらせたまま、首をかしげた。

「嘘が生き甲斐というレベルなんかではありません。嘘をつくことで、己を守っているのです」

そう、自衛の為だ。

「嘘は、正当防衛、自衛にもなりますし、最強で最高な武器にもなりうるのです」

「はぁ………？」

「嘘をつかずに生きていられる人はいないのです。貴女もそうでしょう？人間は、隠しておきたい事が必ずありますから」

「…………。」

「嘘はいつか、真実になってしまう時があります」

「真……実…」

「僕は、真実になってしまう前に嘘を暴くのが、探偵の仕事だと思っています」

「探偵の…仕事…」

治美さんは、僕の言ったことをただ反芻する。

「今回は、分かりやすい事件でしたが、こうして解決に持っていけそうなので良かったです。なにせ初仕事でしたから」

そして、治美さんが僕に依頼した理由も分かった。

僕が新人だからだ。

「治美さん。自首します？罪は少し軽くなりますよ。きっと」

「うぅぅ…」

「僕は探偵事務所に報告してきますから。それでは」

僕はそう言って治美さんに背を向け、ドアを開けようとした。

しかし、頭を何かで殴られ、僕の視界がぐらりと揺れた為、開けることは叶わなかった。

「いっ………つぅ…」

痛む頭を押さえながら、後ろを振り返ってみた。

そこにいたのは、ゴルフで使うあの……なんだっけ。

ゴルフクラブだっけ？

まあ、ゴルフクラブだろ。

それを持っている治美さんだった。

ゴルフクラブの下の部分、ボールを打つ部分は、赤黒い血が付いていた。

僕の頭を殴った時に付いてしまったのだろう。

「殺して…しまえば…隠せ…る………こ、殺す…殺す…殺す…殺す…殺す殺す殺す殺す…」

治美さんは狂ったように「殺す」を連呼している。

「あああああああああああああっ！」
治美さんは叫び、ゴルフクラブを思いきり降りかぶった。

当然、僕は痛みで動けない。

「うぅ…つ、罪を…重ねるんですか…？」

「………う…うぁ…ぅあああああああっ」

うん。

こりゃ殺られるな……

がつん。

と。

ぐらり。

と。






僕の意識は完全に吹っ飛んだ。

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