【Kiramune】たった1人のシンデレラ�供敍�野自由】

080 ページ33

.


『もしもし、A？同窓会終わった？』

『っ、いりのさんッ、』

『・・・A、泣いてんの・・・？』


入野さんの声を聞いて、安心してまた涙が流れる。
すぐに『今どこにいんの？』と訊いてきて、家を出る支度を始める物音が聞こえてくる。
申し訳ないとも思ったが、入野さんに今すぐ会わないと消えてしまいそうだ。

嗚咽のなか自宅前にいることを伝えると、入野さんは私に、玄関でもいいから家の中にいるように言った。


震える脚で玄関の床に座る。
母はもう眠りについているようで、家の中は真っ暗だった。


涙は拭っても拭っても溢れるから、もう拭うのをやめた。

着ていた綺麗な赤いワンピースが、涙が染みて、赤が濃くなってゆく。
その様子を呆然と見つめながら、ただただ、入野さんの到着を待った。


20分ほどして、鍵のかかっていなかったドアが急に開いた。


息を切らした入野さんが、呼吸を整えるのも構わずに私をすぐに抱き締める。


「っ、いりの、さん」

「はぁ、はぁっ、なに、されたの、」

「・・・きす、されたんです」


嫌だって言ったんです、でも、無理やり・・・三回もキスされて、私・・・入野さんじゃなきゃ嫌なのに、気持ち悪くて、抵抗しても無駄で・・・ごめんなさい、本当にごめんなさい・・・


嗚咽が酷くてちゃんと伝わっていたかは分からないが、そう伝えて、入野さんの背中に手を伸ばす。

入野さんは、私の背中に回していた手を片方後頭部に寄せた。


「・・・なんでAが謝るの・・・」

「っ、だって、」

「だってじゃない、あーあ、もう・・・こんなに目腫らして・・・」


入野さんは私の顔を見て微笑むと、瞼にキスをした。


.

081→←079

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す