33、おやすみなさい、世界 ページ33
××
「いやぁ、美味しかったね！」
「ええ……お会計時の太宰先輩の魂が抜け落ちたかのような顔が暫く忘れられそうにありませんが……」
中島先輩と社員寮に戻り、私は床に座り込んだ。マフィアと遭遇したり、探偵社の事務員になったり、殺人現場に付き添ったりと色々と濃い一日だった。
「シャワー、浴びて来ます」
「うん！」
トランクから取り出した衣服を持って浴室へ向かう。一応、タオル、シャンプー、ボディソープなどの必需品は揃っていた。とりあえず汗を流したい。今日は未だ嘗てないほど走ったので汗は凄いし足も痛い。
***
汗を流し、小鳥の囀りで目を覚ました爽やかな朝のように私はスッキリとした気分になっていた。ポタポタと水滴を垂らす髪をお団子に結び、シャツと短パンを身につける。
「ただ今上がりました、中島先輩」
「あっ、う、う、うん！」
じゃあ僕も入ってくるね！と中島先輩はそそくさと浴室へ行った。彼が浴室に入ったのを確認してから、そっとトランクに手をかけた。トランクの中には双眼鏡と小説が入っている。
金色に輝く双眼鏡。これは母の部屋から盗んで来た物だ。母は"旅人"で家には滅多に帰って来ない。最後に会ったのは確か、九歳か十歳の時だったと思う。最後に交わした会話は昨日のことのように頭に焼きついている。というか、母の口から発せられた言葉は一言一句、しっかりと記憶している。
ふわぁ、と欠伸を噛み殺し蒲団の準備をする。
静かに横たわっていると首にタオルを巻いた中島先輩が戻ってきた。
「Aちゃん、未だ起きてたんだ」
「はい」
「あの……立ち入ったこと聞いても良いかな？」
唐突に放たれた言葉に私は騒ぎ出す胸を押さえながら、何でしょうか、と震える声で訊ねた。
「……その、どうしてヨコハマに？」
「家出、みたいなものですよ。先輩」
「い、家出！？」
「旅をしたかったのです。母の様に」
母のように、何にも縛られず自由に生きてみたかった。もっとも、母はあまりに自由すぎたが。母としての役目は放棄して、私に母親らしいことは何一つもしてくれなかった。
「Aちゃんは……お母さんが嫌い？」
「……よく、分からないです。
ただ、母を許さないことだけが私の純情なのですよ、先輩」
私はゆっくりと目を閉じる。
今日はこれでおしまい。
また聞かせてね、と中島先輩に云われ小さく頷く。
「Aちゃんのこと、もっと知りたいんだ」
**
34、楽しきかなヨコハマ観光→←32、人の金で食べる焼肉美味し
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3758人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
黒灰白有無％(プロフ) - 試しにと思い読んでみたら迚も面白かったです！！賭ケ/グ/ル/イは少々爆笑 Aが割と多く出て来るのは珍しいですね。凄く良い話だったので其の儘続編も楽しませて頂きます！！ (9月8日 3時) (
レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
そよそよ - A''''わずか一話で死んだのにいいキャラだった (2023年4月14日 18時) (レス) id: 28bb2962c4 (このIDを非表示/違反報告)
モモンガ←？ - すっごくこの作品大好きで何回も読んでます！！七竈ちゃん可愛くて大好きです!!!!!! (2022年8月25日 13時) (レス) id: e4f6a8b567 (このIDを非表示/違反報告)
ミカン - Aはいいキャラしてるんだよなぁ (2022年1月4日 8時) (レス) @page50 id: 168fc3a64e (このIDを非表示/違反報告)
neko - 太宰さん…。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
