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23、明日世界が滅びたとして ページ23

××



指摘していいものかと迷っているとAちゃんが「手帳が逆さまですよ、国木田先輩」と無遠慮に云った。国木田さんは無言で手帳の向きを戻す。暫しの沈黙。


「俺は動揺していない!マフィア如きで取乱すか!仮令(たとえ)、今ここが襲撃されようと俺が倒す!」

「どうやって倒すのですか?」

「あれをこうしてこうばしっと動き、いい感じにぐっとやって倒す!」


説明がやわやわ過ぎる。
でも、国木田さんの説明がやわやわになるくらい探偵社の危機だということ。

───僕の、所為(せい)だ。

僕が寝台(ベッド)のシーツを強く掴んでいると、Aちゃんの白く冷たい手が僕の手と重なる。驚いて隣を見るとAちゃんが曖昧な笑みを浮かべていた。ああ、この子は。この子は。きれいで、聡明で、優しくて。


「……まあ、奴らは直ぐに来るだろう。
お前が招き入れた事態だ。自分で出来ることを考えておけ」


国木田さんがゆっくりと椅子から立ち上がる。

僕に、出来ること。僕に、何が出来る?


「───ところでお前ら」


国木田さんが立ち止まり、最後に振り向く。


先刻(さっき)から探しているんだが眼鏡を知らんか?」



***


「これからどうしたら良いんだろう……」


国木田さんがいなくなり、医務室には僕とAちゃんだけがいた。Aちゃんは寝台(ベッド)に座り、瞼を閉じている。未だ彼女といて日数は経ってないけれど、何個か分かったことがある。Aちゃんはこうして瞼を閉じることが、よくある。最初は時々小さく震える長い睫毛を観察しているのが好きだったけど今はAちゃんだけ僕を置いて別の世界に行っているみたいで、あまり好きではない。


「どうしたいのですか、中島先輩は」


Aちゃんはゆっくりと瞳を開く。
僕は探偵社に迷惑をかけたくない。
……そもそも、僕に居場所なんて最初からなかったんだ。


「僕は探偵社を辞める」


まだ入社して一日も経過してないんだけどね、そう云って頬を掻く僕をAちゃんは黙って見ていた。


「Aちゃんは、どうする?」

「勿論、中島先輩と共に」


また二人で旅を続けよう。旅を。
何にも囚われず、二人で逃げ切ろう。
遠い何処かへ逃げれば、大丈夫。
君がいれば、大丈夫。


みんなぜんぶ、地球からすべていなくなっても、中島敦と七竈Aだけは残る。


そう、僕らだけが。



**

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黒灰白有無%(プロフ) - 試しにと思い読んでみたら迚も面白かったです!!賭ケ/グ/ル/イは少々爆笑 Aが割と多く出て来るのは珍しいですね。凄く良い話だったので其の儘続編も楽しませて頂きます!! (9月8日 3時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
そよそよ - A''''わずか一話で死んだのにいいキャラだった (2023年4月14日 18時) (レス) id: 28bb2962c4 (このIDを非表示/違反報告)
モモンガ←? - すっごくこの作品大好きで何回も読んでます!!七竈ちゃん可愛くて大好きです!!!!!! (2022年8月25日 13時) (レス) id: e4f6a8b567 (このIDを非表示/違反報告)
ミカン - Aはいいキャラしてるんだよなぁ (2022年1月4日 8時) (レス) @page50 id: 168fc3a64e (このIDを非表示/違反報告)
neko - 太宰さん…。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あんず | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年6月14日 21時

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