20、芥川龍之介という男 ページ20
××
「ひっ……く、くすぐった……」
私は地獄の苦しみを味わっていた。
先程まで鋭利な刃だった男性の外套はふにゃりと柔らかくなり、私の脇、腕、足、とありとあらゆる部分を擽ってきた。男性は明らかに動揺を隠しきれていない様子で外套に怒声を浴びせる。
「おい、羅生門!擽るのではなく、殺せと」
「ひいっ……も、もう……耐えられません……」
「……羅生門、離れろ」
男性は外套に呼び掛けるが、外套は私の腰を掴み離れない。男性は署内の時計を見つめ、舌打ちした。
「あ、あの」
「来い」
男性が、というか外套が、私を強い力で引き寄せ、私は男性の胸の中へ飛び込む形となる。何故私は殺人犯とこんなことをしているのだろう。男性に抱えられるようにして交番を出る。暫くそのまま歩いていると爆音が轟いた。
「う、嘘……」
恐る恐る振り返ると、交番が爆発していた。
少し遅ければ、私は間違いなく巻き添えを食らっていただろう。
「……あ、あなたは何者なのですか」
「芥川龍之介。ごほっ……貴様の名は……」
「……」
殺人犯に名前など教えても良いのだろうか?
暫く躊躇っていると芥川は大きく舌打ちした。
「名前を聞いている!答えろ」
「七竈Aと……申します」
「貴様の異能は何だ」
ああ、まただ。
ヨコハマの住人達は皆、異能の話ばかり。
異能力なんて持ってません、と正直に云えたらどれだけ良かったことか。でも、私は異能の存在を知ってしまった。昨日の夜、私には確実に `異能´ があるのだと自覚してしまった。
「……私の異能は、異能力を魅了する異能力で御座います」
芥川は目を見開く。そして口許を歪めた。
どうにもいやぁな予感がしたので、腕から離れようともがいてみるが彼の外套が私を離してくれない。
「異能の魅了……成る程、貴様が"百億の女"か。マフィアに来い」
「マ、フィア?」
あまりにも物騒過ぎる単語に、眉をひそめる。
マフィアなんて!真逆、そんなものがこの日本に存在するなんてヨコハマに来る前の私は夢にも思わなかった。私はすっと息を吸い込む。
そして、胸の中で `羅生門´ に懇願した。
お願いですから、私を解放してくださいと。
願った瞬間、私の腰に巻きついていた芥川の異能がゆっくりと離れていく。芥川が声を荒げるのを無視し、一目散に駆け出した。
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黒灰白有無%(プロフ) - 試しにと思い読んでみたら迚も面白かったです!!賭ケ/グ/ル/イは少々爆笑 Aが割と多く出て来るのは珍しいですね。凄く良い話だったので其の儘続編も楽しませて頂きます!! (9月8日 3時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
そよそよ - A''''わずか一話で死んだのにいいキャラだった (2023年4月14日 18時) (レス) id: 28bb2962c4 (このIDを非表示/違反報告)
モモンガ←? - すっごくこの作品大好きで何回も読んでます!!七竈ちゃん可愛くて大好きです!!!!!! (2022年8月25日 13時) (レス) id: e4f6a8b567 (このIDを非表示/違反報告)
ミカン - Aはいいキャラしてるんだよなぁ (2022年1月4日 8時) (レス) @page50 id: 168fc3a64e (このIDを非表示/違反報告)
neko - 太宰さん…。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
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