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頼りにしてる。聞きなれない一文がどうしてか頭から離れず、先ほどまで谷底に落とされる直前のような気分だったのが嘘のように、冷静に本棚に向かうことが出来た。私は『あのマイキー』を檻の向こう側で牙を光らせる猛獣のような人だと思っていたけれど、もしかしたらそれは間違っていたのかも知れなかった。

禍々しい表紙で彩られた文庫本が、開いてみたら見知らぬわくわくに満ち溢れている物語だったり、とか。『佐野万次郎』とはもしかして、そういう存在なのかも知れなかった。


「あの」
「ん?」
「これとか……」


どうですか、の声はもごもごと頼りなく潰れていく。頼りにしてる、そう言われたのに情けない。けれど、小四の時に瞳を輝かせながら読んでいた海賊の冒険譚は、多分自信をもって手に持って渡せていたと思う。


「……」
「………」
「どんな話?」
「…どんな……?」
「海賊の話?」
「…そ、そうですね」
「海賊何すんの」
「それは、読まないとわからないです」


へにゃ、と笑みを浮かべながら彼に言葉を返すけれど、この態度は命知らずかもしれない、と慌てて口を噤む。学年の王様みたいな人に対して失礼だったかも、とジャンパースカートの裾を握りしめるけれど、彼はこころなしか鋭い目を和らげながら、「そっか」と返したのだった。


「じゃ、持ってく」
「……あ、ありがとうございます」
「それはこっちが言うんじゃねーの?」
「え?あっ、すみ、すみません」
「うける」


彼をカウンターに連れて行ってクラス別の貸出票のバーコードを探し当て、彼が2つ隣のクラスだったことを知る。同じ赤組だったんだ、運動会の時彼は何してたんだろう、なんてぼんやり考えたけれど、やっぱり想像がつかなかった。


「返却日、来週の水曜日です」
「忘れそう」
「わ、忘れない方がいいと思います。司書さん、怖いです」
「シショさん?」
「一番偉い人です」
「お前が番張ってるんじゃなかったの」


冗談なのかそうでないのか分からなかったけれど、多分、笑っても良かったんだと思う。「番は張ってません」と微かに口角を上げながらそう言えば、彼もつられて、笑ってくれた、と思う。


「じゃ」
「…は、はい」
「これ、面白かったらまた来る」
「え」


彼はひょこ、と手を上げながら図書室を後にする。颯爽と去っていった学校1の有名人に、白昼夢だったのでは、とも思ったけれど、貸出票には確かに『佐野万次郎』の名前が書いてあった。

彼がまたここに来たとして、もう一度会話をする自信はなかったけれど。
あの本、面白いと思ってくれたらいいな。そう思った。



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設定タグ:東京卍リベンジャーズ , 佐野万次郎   
作品ジャンル:アニメ
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まめ(プロフ) - 世河経さん» コメントありがとうございます!丁寧に読んでいただいたみたいでとても嬉しいです😭 これからもよろしくお願いいたします! (2022年4月7日 11時) (レス) id: e02a633284 (このIDを非表示/違反報告)
世河経(プロフ) - 久し振りに感嘆の溜息を吐いたような気がします……作品の持つ雰囲気に刮目しました!是非、更新頑張られてください!! (2022年4月2日 12時) (レス) @page2 id: 1e6cb0271b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みな | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/nymn624  
作成日時:2022年4月1日 21時

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