34.「明後日また」 ページ35
.
「送ってく」
たった四文字の言葉なのに、情報として受け入れるにはあまりにも容量が多く、パンクして飛び出る空気の代わりに「ええ」と気の抜けた声が零れ落ちる。そんな私に何を思っているのか、彼はもう一度「送ってく」、と私が飲み込むのに時間がかかる言葉を、なんてことないように口にした。
「さのくん…」
「行こ」
「待って……」
「そういうことだから。じゃあな」
私含め驚きのあまり目を見開いているお友達御一行だったけれど、一呼吸間をおいて納得したように「おう」「任せたワ」と口々に言い始めた。どなたかが「その女子知り合い？」と問いかければ、彼はまた、感情の読み取れないような顔で言った。
「こいつ、いーんちょ」
「……お、おう」
「友達いねーから覚えて帰って」
「えっ」
「ええ…」
「じゃ」
いくつもの爆弾を投げ込んだ後、彼は颯爽と立ち去ってしまう。それだから、私は御一行に対するお礼もそこそこに、その場から離れることになってしまった。破天荒で、何を考えているのか分からない。『ドラケン』の印象はこの短時間で随分変わってしまったのに、対して彼の印象は半年前から変わらないままだった。
安心感とは程遠い。
それなのに、その破茶滅茶具合は、私にとっては何よりも安心するものだった。
「…さのくん」
「ん」
「どうして……」
「オマエの『大丈夫』は、『大丈夫』じゃねーから」
彼の一言はいつも、ゆっくり味わってくれ、とでも言いたげに私に重くのしかかってくる。噛み砕いているうちに、色々なことが枝分かれするように心の中で広がって、茹るように熱を帯び始めて。結局、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。
ぐるぐると思考を巡らせる私をよそに、彼はポケットから徐に何かを取り出して私に手渡してくる。直前まで人肌に触れていたそれはほんのり温まっているような気がする。目を白黒させながらその棒付きキャンディを受け取る私を見て、彼は首を傾げた。
「メロン嫌い？」
「い、いえ、あの」
「食える？」
「は、はい」
「そっか」
「あの、これは」
「ん？」
「……もらってもいいんですか…？」
「は？」
はっきりしない態度をとる私に苛立ったのか、彼は「いらねーなら返せ」と不機嫌そうに口を尖らせる。「いえ、いります、ありがとうございます」、慌ててそう頭を下げれば、彼は「最初からそうしとけ」と眉を顰めた。また、不必要に彼を怒らせてしまった。そう思ったけれど、同時にこういったやり取りが久し振りであることに気が付いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 91人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まめ(プロフ) - 世河経さん» コメントありがとうございます！丁寧に読んでいただいたみたいでとても嬉しいです😭 これからもよろしくお願いいたします！ (2022年4月7日 11時) (
レス) id: e02a633284 (このIDを非表示/違反報告)
世河経(プロフ) - 久し振りに感嘆の溜息を吐いたような気がします……作品の持つ雰囲気に刮目しました！是非、更新頑張られてください！！ (2022年4月2日 12時) (レス) @page2 id: 1e6cb0271b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みな | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/nymn624
作成日時：2022年4月1日 21時
