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「本当に迎えに行かなくてもいいの？」
「うん、大丈夫」
「遅くなるなら前もって…」
「ごめんなさい」
「一緒に帰る人とかはいるの？」
「いるよ、大丈夫」
緑色の受話器からテレフォンカードを抜き取り、溜息を吐く。この数分程度の会話の中で、私はどれほどの嘘をついたのだろう。
今日の授業内容が全く頭に入らなかった。それだから、講師の先生を捕まえて指導を受けていた。そうしたらあっという間に閉校時間を迎えてしまった。その旨を母に電話で伝えると、案の定少しのお小言、そして心配の言葉が帰って来た。本当は夜道は怖いし、一緒に帰る人なんていないけれど。苦労をかけるのが忍びなく、私はわざとらしく「大丈夫」を繰り返した。
一緒に帰る人はいるの。いるよ、大丈夫。友達作りを挫折したばかりで、まだ負って日が浅い傷口を自分で抉るような嘘に勝手にダメージを受けつつ、私は重い通学鞄に腕を通した。
東京の濁った夜空に覆われた暗闇、それを誤魔化すような、目にうるさいネオンの光。何度通っても慣れることは出来ないけれど、今日はそんなことに気を取られている余裕はなかった。
居残りしてたの、私だけだった。今日私が出来なかったところ、もしかしたら他のみんなは出来ているかもしれない。次のテストでクラスが下がったらどうしよう。出来ない科目を拗らせて、出来ることまで出来なくなったらどうしよう。数多の心配事は、道の端で男の人たちが吸っているタバコの煙のように頭の中で渦巻いていた。
あの人たち、タバコ吸ってる人たち。多分、高校生だ。
自由で、何にも囚われることなく、思うがまま生きている、そういう人たちなんだろう。私が怖いと思うこと、逃げ出したくなるようなことをものともせずに、我が道を行くことを躊躇わないような、そんな。ああいう風に生きることは出来ないし、むしろ避けて通りたいけれど。
何も怖くない。そう思えることは単純に羨ましかった。
自分が歩いている地面が今にも崩れ落ちてしまうような気がして、思わずぼんやりとネオンに向けていた視線を地面に落とした。
明日も学校。明後日も。あいつ、無視ね。そう槍玉にあげられていたあの子はその後無事だろうか。早々とグループを抜けてしまった私を恨んではいないだろうか。考えても仕方のない事ばかりが思い浮かんでいたせいか、私は無数の足音が迫っていることに、ぎりぎりまで気付くことが出来なかった。
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まめ(プロフ) - 世河経さん» コメントありがとうございます！丁寧に読んでいただいたみたいでとても嬉しいです😭 これからもよろしくお願いいたします！ (2022年4月7日 11時) (
レス) id: e02a633284 (このIDを非表示/違反報告)
世河経(プロフ) - 久し振りに感嘆の溜息を吐いたような気がします……作品の持つ雰囲気に刮目しました！是非、更新頑張られてください！！ (2022年4月2日 12時) (レス) @page2 id: 1e6cb0271b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：みな | 作者ホームページ：https://mobile.twitter.com/nymn624
作成日時：2022年4月1日 21時
