▼.夜に溶けた造花の嘘 ページ17
「ぃいったぁ……」
右腕と右脚に抉り込んだ弾丸を無理矢理引き抜けば、更に鋭い痛みに顔をしかめる。
幹部の部下でありながら、夜の奇襲にも気付けないなんて、一生の不覚だ。
中原さんに怒られるかな。
「Aッ!!
無事か!?」
「っあ、中原さ、ぅく…………」
中原さんの声に立ち上がろうとして、無理に動いたのが良くなかった。銃創の痛みに、思わずうずくまる。中原さんが駆け寄ってくる足音がする。
あぁ、駄目だ、駄目だ。中原さんの前で、失態を晒してはいけない。
自分にそう言い聞かせ痛みを堪えて立ち上がり、中原さんに笑みを向けた。
「はい、大丈夫です。
ご心配には及びません」
「……はぁ」
いつも通りの対応だった筈だ。
それなのに、中原さんは呆れたようにため息をついて、帽子を被った頭をがりがりと掻く。
そして、ふわ、と。
「……っ、え!?」
「怪我してんだろ手前、見りゃ分かる」
軽々と小柄な体に横に抱きかかえられる。しかも、揺れを最小限に抑えてくれているらしい。
……でも、それよりも。
今この状況の密着度が高くて、そちらの方に意識がいってしまう。……駄目なのに。
しばらく歩き続けて、中原さんはある扉の前で立ち止まる。中原さんは行儀が悪いことに、……仕方がないのだけれど、それを脚で蹴り開けた。
寝台が一つ、洗面台が一つと抽斗がついた机が一つの簡素な部屋。中原さんは私を寝台に横たえて、何やら抽斗を探り、包帯と消毒液を出してきた。
そして腕と脚の手当てをし始めて、私は慌ててそれを止める。
「な、中原さん、私自分でっ」
「うるせぇ、黙ってろ」
中原さんの有無を言わせぬその言葉に押し黙る。中原さんは案外てきぱき手当てを終えた。
私は流石に寝転がったままは駄目だと思い、起き上がろうとして、しかし中原さんに阻まれる。中原さんは起きかけた私の肩を押し返して、押し倒している、ような状況。
「中原さん?」
「……他に怪我したとこねぇか、探す」
「なっ、無いです無いです!!」
「手前、すぐ嘘つくからな」
見ない限り本当かどうか分かんねぇ。
そう言って、中原さんは私に馬乗りになる。さっきは隠したけれども、もう無いのは本当だ。
私はちら、と中原さんを見上げる。
私のシャツの鈕を幾つか外し、鎖骨を撫でる中原さんの目には熱が籠っていて、あぁ、この人になら、良いかな。
____なんて、思っている私の唇は、確かな熱にさらわれる。
2019/8/10 硝子屋
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硝子屋(プロフ) - 猫また猫さん» 了承ありがとうございます。リクエストですね、少々お待ちください…… (2020年2月24日 23時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - すみません夢主ちゃんと社長は結婚していない設定でお願いします (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫また猫 - 硝子屋さん» リクエスト失礼しつれいしますね!!福沢社長で子どもを預かる話をリクエストしたいです社長と夢主ちゃんは結婚している設定で (2020年2月24日 17時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
猫 - あ、全然混浴でなくても大丈夫です!無理をさせてしまいすみませんでした (2020年2月24日 15時) (レス) id: fa2d4be8dc (このIDを非表示/違反報告)
硝子屋(プロフ) - 乱歩信者さん» リクありがとうございます!少々お待ちください…… (2020年2月20日 21時) (レス) id: c0a77834dc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:硝子屋+ソーダ | 作者ホームページ:
作成日時:2018年1月25日 6時