【タイトル未定】 ページ8
『ずっと君を見ていた』
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「本日付でこちらに配属されました。渡辺と申します」
年に一度二度しかない慣れないスーツ姿で、中身の少ない凹んだショルダーバッグを下げて、俺は玄関先にそう言った。
それから二時間ほどして、俺は人混みするスクランブル交差点を歩き、一人の女をツけていた。ずっと背中を追って彼女の足跡を辿っているものだから、まともに相手の顔さえ見ていない。俺が思い浮かべる彼女の顔は、二時間前に資料で見た利発そうな笑顔で固まってしまっている。彼女がどこに行こうとして、何をしようとしているのか、それを監察するのが俺の仕事であり、その結果を記録し報告するのも俺の仕事である。国内の犯罪件数は期待に及ぶような著しい結果をもたらすことなはなく、その結果政府が立案したのは、極秘機関の創設であった。個人のプライベートの保護が主張された現代社会において、それは日本国憲法のいくつかを犯す行為であり、公になれば全議員辞職も有り得るこの政策は、国民の一人として同意のないまま執行された。
『警視庁 個人監察課』ー。俺の所属するこの課は旧内務省系官庁の直接的な管理下のもとで業務を行っており、その実態は普段警察が取り締まっているストーカーの犯行とさほど変わらない、「変質団体」と言って何らさしつかえのない機関だった。しかし誤解はしないでほしい。俺は好きでこの仕事をやっているわけではない。当初の俺は交番で町の治安を見守るだけの若葉に等しい“おまわりさん”のはずだった。はずだったのに、出世して間も無く「適性」と記された紙と一緒にこの課に放り込まれたのだ。訴えても良かったのだが、極秘機関なだけに給料が高かったので、あえて俺は実行に移すことはなかった。おかげで私生活自体は何一つ不自由などない。なんて、言えるわけがない。
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作者名：app shiyama | 作成日時：2017年12月31日 12時
