__ ページ33
それからしばらくの間、櫻井くんの家へ通うようになった。
お互い仕事もあるから毎日とまではいかないけど、近年の中で言えば会う頻度は圧倒的に高い。
"貸し1"と言ってしまったものの、まるで大学時代に戻ったみたいでなんだか楽しいし
むしろ、あの春の悲惨な出来事によって傷心気味だった心が日に日に癒えていくのを感じて、私としてもありがたい。
『Aちゃん、』
「んー？」
例によって、今日も仕事終わりに櫻井くんの家にお邪魔している。
一緒に食べたごはんの食器たちを洗う私のすぐ横で、椅子に座った櫻井くんが食器を拭きながら話しかけて来た。
『なんか、よう分からんけどさ』
「うん」
『もしこの先結婚するならAちゃんがええわ』
「えっ、なに急に」
『皿洗ってるAちゃん見たら急に思った』
手料理作って欲しいというお願いの時は視線も合わせなかったのに、こういう思わせぶりとも取れるような言葉は恥ずかしげもなく口にできる辺り、櫻井くんの恥ずかしいと感じる基準が一体どこなのか分からない。
そして何より、そんな櫻井くんに慣れてしまって耳すら赤くならない私も私である。
「けど今のところ結婚する気はないんでしょ？」
『うん』
「変なの」
『変やな』
「でも、私ももし結婚するなら櫻井くんだな。櫻井くんでいいわ」
『"でいいわ"はもう妥協やん』
「ごめんごめん、ちょっと言葉の綾が」
『思いの外傷付くからな。ほんま言葉の使い方気ぃ付けや？』
クククと笑う横でちょっぴりムスッとしてる櫻井くん
は、今日は一段と子どもっぽさがあって余計に可笑しくて、愛おしい。
結婚なんて、今の私たちには遠い話。
けどひょっとしたら
急に近くまでやってくることがあるかもしれない。
その時、隣にいるのが櫻井くんならば
こんな幸せなことはないだろう。
「櫻井くん」
『なに』
「お皿片付け終わったら、アイス食べよ」
『あ、そうやアイスあったんや』
「私チョコモナカジャンボにしよー」
『うわ、取られた』
「早く言ったもん勝ちでーす」
『せこ！ほんならしゃーなしでスーパーカップにするわ』
常々思う。
あなたと一緒にいるのは、とても心地が良い。
だからこそ感じる。
あなたと一緒にいる時間が、これからももっと増えていく気がすると。
無機質な日々に、また彩りが増えていく。
そんな優しい予感がした。
-end-
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 286人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
musubi.(プロフ) - ユキさん» 貴重なご意見ありがとうございます！作者としましては櫻井さんもまた中々に捗りがちなので、移転先でもちょこちょこ作品を投稿したいと考えてます^_^ (2021年9月10日 20時) (
レス) id: 2c2c22a77b (このIDを非表示/違反報告)
ユキ - こんにちは。どのお話も素敵で大好きですが、櫻井さんのお話が本人のイメージにぴったりでした。更新楽しみにしています。 (2021年9月9日 20時) (レス) id: 03f475eb75 (このIDを非表示/違反報告)
musubi.(プロフ) - na__175さん» まさか感想をいただけるとは…！この度はコメントいただきありがとうございます！今後も、リアルでキュンとする作品をお届けできればと思っております^_^ (2021年9月5日 22時) (レス) id: 2c2c22a77b (このIDを非表示/違反報告)
na__175(プロフ) - 野田さんの作品、セリフの感じが本人ぽくてキュンときました、、、、また楽しみにしています！ (2021年9月5日 20時) (レス) id: 24730842e2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：musubi. | 作成日時：2021年1月12日 23時
