蜜色の一雫

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「先週はご迷惑おかけしてすみませんでした」




あれから月曜日。
すっかり体調も良くなって上司にそう言って席に戻ろうとすると
バチッと北山さんと目が合った。

あああ……、蘇るあの日の出来事。

本当は逃げ出したかったけど
無視も出来ないし………、





「あの、北山さんも本当に迷惑かけちゃってすみませんでした」




デスクまで行って頭を下げると
ちょいちょい、って手招きされて席を立つから私もその後に続く。

どうしよう、背中を見てるだけでもドキドキが止まらない。









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「もう平気なの？」





いつもの給湯室。

今日はまだ紅茶を飲むのには早いし
ただただ話をするだけっていう空気感に
そわそわと落ち着かない。





「はい。
体調もすっかり良くなって」


「土日バイト行ったりしてないよな？」


「う…………、は………、い？」


「………さては行ったな？」


「だ、だってっ、」





土日はもうすっかり体調が良かったんだもん。
あんまり休んで周りに迷惑かけるのも嫌だし……。





「バカ、もう無理すんなって言っただろ？」


「なっ、またバカって！」


「俺が旦那だったら絶対バイト行くの止めんのに」


「………、」




ま、またそんなこと言う……。




「つか、バイトすらさせねぇわ」


「わ、分かりましたから
ありがとうございますっ」





この無駄にドキドキする会話
どうせ無意味なんだしやめて欲しい。

ちょっとムッとしてるから
いつの間にか近付いてた距離を離すように胸を押し返して
なだめるようにこの会話を早々と終わらせた。






「ていうかさ、
あの日大丈夫だった？ちゃんと寝れてた？」





あの日をぶり返されて
心臓がドクンと跳ね上がった。

あんな告白まがいなことを言われて
私はなんて反応したらいいのかなんて
まだ答えを見い出せていなくて。





「あ…………の、結構熱も高くてほとんど記憶なくてっ。
朦朧としながら多分寝ちゃってたと思います……」


「ベット入ってすぐ？」


「…………はい、」


「そっか」





"寝れてた？"って会話に"記憶がない"だなんて
分かりやすすぎる嘘だったかな、なんて自分の言葉に後悔したけど

きっとこれでいいのかも。




知らないふりを、聞かなかったふりをするのが
私にとっても北山さんにとっても
一番いいのかもしれない。

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