蜜色の一雫

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「随分似合ってるね、それ」


「え？」


「普段会社できっちりしてる服装しか見たことないから
なんか新鮮」





予想もしないことを言われて
はぁ……、とあっけに取られて間抜けな返事しか出来ない私に笑って見せた。





「そんで？
ここで働いてんの？」




そして急に確信に触れる質問。

小さく頷くと、そうだったんだって。




「すいません……、
会社には言わないでもらっていいですか？」


「うん、いや別に言うつもりもないけどさ」


「ありがとうございます」


「でもなんで？
井上さん、結婚してんだよね？」





そうだよね、そう来るよね。

だからバレたくなかった。

結婚までしてる女が
定時の仕事の他にバイトまでしてるなんて
なんだか恥ずかしいことのようなきがして。






「………はい、色々あって……、」


「……まぁ、それぞれ家庭には色々事情もあるだろうし
変に口出すつもりはないけど……」





俯いてる私には北山さんの表情は確認できないけど
口調は決して責めてるわけでもなく、優しい。






「大丈夫なの？」






ポンッ、て頭に何かが優しく触れるから
思わず顔を上げると、困ったように笑う北山さんとバッチリ目が合った。






「たまに疲れてるように見えるから
大丈夫なのかなって思って」






じーん、とその言葉が
頭をポンポンしてくれる温もりが相まって、そのまま胸に染み込んでく。

なんだかもう言葉も出なくて
何度も頷いていると、お客さんが呼び出す音が聞こえて
仕事に戻ろうと北山さんに頭を下げた。






「ごめんなさい、もう仕事戻らないと」


「うん、無理はしないでね？」





どうしてこの人の言葉は
こんなにもいちいち優しくて心に染みるんだろう。

旦那が優しい言葉をかけてくれないわけではないけど
こんなにも泣きそうになるくらい染み渡るのは
北山さんだからな気がする。





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「ありがとうございました」





結局その日は普通に北山さんを見送って
仕事を終えた深夜、いつもなら疲れ果ててそのまますぐ爆睡なんだけど
なんだかソワソワしちゃってなかなか寝付けなかった。

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