嘘つきなキス２ (ページ13)

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１３北山side ページ13

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だいぶ予算がかかるであろう衣装も
桜井さんの快諾によって着々と準備は進んでいく。

また桜井さんがＭＶ制作を頼んだのはインディーズバンドには有り得ない程の、世界的にも有名な写真家であり映画監督でもある人だった。

「さ、桜井さん！」

「君らの写真見せて曲を聴かせたら是非やりたいって言ったのは彼女の方だよ。彼女は仕事の大小は関係ないからね。自分の感性で興味のあるものを撮るだけだから」

「で、でもっ」

「いいじゃないか。君らのアルバムの世界観にぴったりだろう。彼女の撮る極彩色な色気のある映像は」

これで駄目ならもう未練はないだろ。

そう言って笑い飛ばす桜井さんに頭が上がらなかった。

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"頑張れ頑張れってもう無理だよ……私宏光みたいに強くなれないからっ。
もう嫌、歌いたくないっ"

"は？ここまで来てどうしたんだよ、今までずっと歌いたくて歌ってきたんだろ？"

"違うっ、違うっ、宏光の為だよ。私はずっと……ずっと最初から宏光の為に歌ってきたの！
だからもう歌えない……歌えないのっ"

宏光の為に歌ってきたの
だからもう歌えない。

それが意味することは一つだった。

俺のことをもう愛してはいない。

"お願い……私を解放してよ、もう"

夢の中の自分は

"行かないで、行くな、行かないでくれ"

いつも叫んで目が覚める。

でも現実は違っていた。

『俺たちの夢がもう目の前にあるんだぞ。これはお前だけの問題じゃない。そんな我がまま言うなよ。お前の歌を、声を、待ってるファンだっていっぱいいるんだから』

俺なりに一生懸命励ました、

つもりだった。

恋人として寄り添ってやれば
きっと未来は変わっていただろう。

でもそれは甘えでしかないと思っていた。

あの頃の傲慢な自分は────。

そして今回だって前回と何も変わっちゃいない。

女よりも音楽を選ぶ自分が
誰かを本気で愛せるわけがない。

軽率にファンに手を出すような女遊びをしなくなった代わりに
俺はどんどん音楽にのめり込んでいった。