30.《帽子の彼》 ページ31
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「げ、マジか」
「やべえ、早く行くぞ!」
「ポートマフィア」という言葉を聞いた途端に、男達は顔色を変えて一目散に走って行った。
それ程ポートマフィアの残虐さは知れ渡っているらしい。
「……行ったな」
ボソッと低く呟く声がまた耳に届く。
男達の姿が見えなくなったところで、安堵で肩の力が抜けた。
『あの……』
「あ、悪いな」
少し身じろぐと、ぱっと腰から手が離れた。
彼から少し間をとって、ほっと溜め息を吐く。
『すみません、ありがとうございました』
きちんとお礼をして、彼の顔を見る。
うむ……改めて見るとやっぱりかなりのイケメンだ。
今時珍しい黒い帽子といい、この服装といい、
多分、私とは全く違う世界の人だと思う。
さっき抱き寄せられた時に触れた外套の生地はかなり上等なものだったから、それなりの階級の人。
「気にすんな。それよりお前、学生だろ?何でこんな処に居るんだよ」
『え、あー…近道、しようと思って』
突然そんな事を聞かれて、口籠る。
普通の女子高生がこんな処に居たらそりゃあ不審に思うだろう。
正直に答えれば、帽子の彼は「はあ?」と眉をつり上げる。
「あのなあ、此処は横浜で一番治安が悪い場所なんだぞ」
『はい……重々承知しております…』
「ったく…近道だからって通るような莫迦は初めて見たぞ」
『うっ…』
かなり厳しめにお叱りを受けた。
益々身が縮こまる。
『今度からは気を付けます…』
「当たり前だ。近道なんざせずに歩け」
『……はい』
強い口調に思わず俯いてしまう。
何だろう、教師に叱られるより反省してる。
『…ごめんなさい』
ああもう、本当に如何して近道しようだなんて思ってしまったんだろう。
結果的に普通の道より時間がかかってるし、こうして見ず知らずの他人に怒られてる。
如何して、何時も何時もこうなってしまうのだろう。
『………っ、』
ぽろっ、と涙が一粒こぼれ落ちた。
何の感情からくる涙か判らなかった。
「え、」と頭上で声がした。
『ご、ごめんなさい、違うんです、』
「……謝んな」
慌てて涙を拭っていると、頭に手が置かれた。
顔を上げると青い瞳と目が合う。
「俺の方こそ悪い。先刻怖い思いしたばかりだもんな…俺の配慮不足だ」
そう云う彼に、何故か胸の奥がぎゅっとなった。
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奏翔 - とても面白いです!更新待ってます!頑張ってください! (2023年3月21日 20時) (レス) @page50 id: 49dd49021f (このIDを非表示/違反報告)
ナナ - とても面白かったです!更新楽しみにしてます! (2023年3月17日 10時) (レス) id: e237c48342 (このIDを非表示/違反報告)
麦子(プロフ) - 瑠李さん» ありがとうございます!( ;ᵕ; ) これからもお付き合い頂けると嬉しいです! (2023年2月3日 7時) (レス) id: 064241d233 (このIDを非表示/違反報告)
瑠李(プロフ) - ゚+。:.゚おぉ(*゚O゚ *)ぉぉ゚.:。+゚めっちゃ楽しみに待っていました٩(๑>∀<๑)۶更新ありがとうございます<(_ _*)>麦子さんの小説は大好きです。頑張ってください。これからも応援してます。 (2023年1月19日 0時) (レス) @page48 id: 6b9c5dcab8 (このIDを非表示/違反報告)
麦子(プロフ) - Senaさん» コメントありがとうございます!とても嬉しいです…😭更新頑張ります! (2022年5月2日 1時) (レス) id: 064241d233 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:麦子 | 作成日時:2018年4月28日 20時