【wrwrd】俺らの可愛いニンゲンちゃん

44.視線の正体 ページ44

感じた視線に顔を上げた。
この部屋には私とトントンさんしかいない。となれば当然、視線の主はトントンさんなのだろう。
しかし、トントンさんは変わらず机に向かっている。

おかしい。気のせいだったかと本に戻れば、またも感じる視線。
耳をすませば、トントンさんがペンを走らせる音が聞こえない。
トントンさんだろうとそちらに顔を向けるが、やはり目が合わない。
いや、故意に逸らされている？
私が顔を上げると、慌てて視線を逸らしているようだ。

そんなやりとりを数度繰り返して見たものの、埒があかない。

『トントンさん』

声をかけてみれば、彼はあっさりと観念したようで「バレとったか」と手を止めて席を立った。
そのままこちらに歩み寄ると、少し間を開けてソファに腰を下ろした。

「お、おいで」

控えめに言われたそれと、遠慮がちに差し出された手。
手を見つめて、続いて彼の顔を見上げれば、緊張と期待に満ちた面持ちだ。

少し震えるその大きな手に、“お手”をするように手を添えれば、彼の口元が確かに緩んだ。

今度は膝を叩くと「おいで」と同じように声をかけてくる。
まさか、膝に乗れと？
それは少しハードルが高いな、と動かずにいれば、彼が首をかしげた。

「A…？おいで？」

少し悲しそうに下がった眉に、罪悪感が煽られる。いや、別に悪いことはしていないのだけど。
それでも、私がこの顔をさせていると思うと、良心をチクチクと刺されている気がして、申し訳程度にその膝に手を乗せた。
これで勘弁してもらえるとありがたいが。

「はぇー……かっわええ」

にやける口元を押さえているようだが、声も感情もダダ漏れだ。

もしかしなくても、この人は人間大好きなのでは？

勝手ながら、厳しそうで、少し怖いイメージを持っていたのが一転、目の前のデレデレな様子が強烈に焼きつく。
悪い人じゃなさそうだと思ったのはあながち間違いではなさそうだ。

「さ、触るでー…」

そう宣言して、回り込んだ腕がふわりと私を持ち上げた。
反射的に身を捩りたくなるが、先程の顔を思い出して少し我慢する。くすぐったいけど我慢だ。

彼の膝の上へと下ろされて、そのままお腹に腕が回った。
さながら小さな子供が父親の膝に座るようなこの姿勢は妙に恥ずかしい。誰にも見られていないのが救いだろうか。


2022.1.12

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