22 ページ22
.
「遅ェ。今何時だと思ってる」
戸を開けるなり冷たく避難する言葉を投げつけられる。台詞とは裏腹に声色は何処か相手を気遣う温かさを含んでいて、胸の奥がきゅっと小さく縮こまった。
「心配しなくても山崎さんに迎えに来て貰ったので」
振り返ってもくれない。それでも、紫煙を燻らせながら紙に筆を走らせる部屋の主の顔が見たくてゆっくりと歩を進める。
文机には書類が山の如く積まれていた。ちゃんと眠れているのだろうか、いつもの事ではあるけれどもっと自分の身体も大事にして欲しい。
「...で、どうだホシは」
「今のところ可笑しな様子はないです」
街で迷子になっていた子どもが薬屋の亡き兄上の息子であったこと。父親から薬屋を継ぎ、今はその甥っ子と二人で生活していること。売られている薬に不審な物は特に見当たらなかったこと...私は今日一日の出来事を全て副長に報告した。
「店の奥には入れたか?」
「いえ...流石に奥までは」
「そうか、」
薄い唇からふぅ...と細長く煙を吐き出す。紫煙が夜空に溶け込むのを見届けると静かに筆を置き、ようやく此方を振り返った。
「A」
昏い青が、私を捕らえて離さない。
「奴を深くまで探るにはもっと親密になる必要がある。お前にしか頼めねェ仕事だ。多少時間が掛かってもいい...出来るか?」
「...っ」
つまり...ターゲットを惚れさせろというのか。
断れる訳がない、貴重な女隊士である私にしかできない仕事だから。分かっている癖に私の判断に委ねる様な問い方をしてくるこの男が少しだけ憎い。任務遂行の為とはいえ、私と知らない男が深い仲になる事も厭わない。
それもそうだ、副長にとって私はただの部下の一人に過ぎないのだから。
「報酬は弾んで下さいね」
「おう。勿論だ」
精一杯笑みを貼り付けると副長はほんの少し柔らかな表情を浮かべた。
.
792人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
マツリ(プロフ) - Hiさん» 返信遅くなってしまいすみません🙇🏻♂️一気見ありがとうございます...!!嬉しいです! (3月3日 0時) (レス) id: 07cc4afb9c (このIDを非表示/違反報告)
Hi(プロフ) - とても面白いお話で今日一気見しました、、!!! 続き楽しみにしています(*^^*) (2月23日 3時) (レス) @page37 id: c9fcf96ef3 (このIDを非表示/違反報告)
マツリ(プロフ) - Honokaさん» ありがとうございます...!私も報われて欲しいです😂 (8月26日 22時) (レス) id: 07cc4afb9c (このIDを非表示/違反報告)
Honoka - 続き楽しみにしてます!!夢主ちゃん報われるといいな、、、、 (8月26日 16時) (レス) id: c2fc80e477 (このIDを非表示/違反報告)
マツリ(プロフ) - ななしさん» ありがとうございます!更新頑張りますね...! (2023年1月5日 12時) (レス) id: 153e8c8a98 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:マツリ | 作成日時:2021年7月16日 16時