いちごミルク味 ページ2
*
残暑が残りつつも秋色を感じ始めたある日。
いつにも増して生気の無い一日だった。
「じゅりーーー」
肩に掛けたタオルで濡れた髪を拭うお風呂上がりの樹。
ソファーに腰を下ろすと毛先からぽた、ぽたと水滴が落ちて一部が変色していくが、そんなことに気のない素振りの樹の手には棒付きキャンディが一本。
ひだが途中でぶちっと切れてしまうと軽く舌打ちをして、その小さな反動でまた水滴が一滴落ちる。
やって、と北斗に放り出す。
ふふっと笑いながら丁寧に剥がしてあげると淡いマーブル模様が顔を出す。
「何味？」
「いちごミルク」
「俺にもちょーだい」
キャンディをぱくっと口に入れる樹。
「最後の一本」
口が寂しいじゃん、と白い歯を見せてニィッとやんちゃ顔。
「今日はあげないからね」
近くに置いていたロンTに腕を入れながら一瞬ちらっと北斗を見ると掌で口を隠している。
目を少し細めてにやけている。
「うざ、お前」
そう吐き捨てながら頭を通す樹。
「で、なに？」
「っぁー....これ、やってくんない？」
一日分の注射剤を出すと、スマホから視線を外す樹。
「いつも自分でやってんじゃん」
「そうなんだけどさ、....気分じゃないっていうか」
腹を摩り目を泳がせる。
その様子を見て眉間に皺を寄せる樹。
「....ギブ？」
「、、んまぁそんなとこ」
「濁すんじゃねぇよ」
「....ちょっとだけ腹痛くなるくらい」
見せろ、と腕をぐっと掴まれる。
樹ってこういう時、ほんと口調も強くなるし目つきも悪くなるよね。
「大したことはないんだけど」
「いいから」
カラン
キャンディを口の中で転がす。
樹の息とともに漂う甘い匂い。
*
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作者名：珠有 | 作成日時：2020年12月26日 0時
