陰キャとさくまの水曜日 (ページ8)

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「……あれ、もしかして碧衣さん？」

それを覗き込んだ彼は何かに気づいたような表情。
そして教えていないはずの苗字を発する。

「え！阿部ちゃん知り合い？」

「いや…毎回課題の講評で教授に褒められてるし、模型のクオリティも高いから一方的に知ってるっていうか」

彼は見覚えのある教科書を抱えていた。
さっきの授業で使ったもの。

「へー！なんだ共通の知り合いいるんじゃーん！」

「いや俺の事は知らないだろうけど」

建築の人らしい。てかそりゃそうだ、ここ建築棟。

阿部…確かにその苗字は聞いたことある気がする。あまり他人の評価なんて気にしないけど、阿部って人がよく褒められてるなぁと思ったことはある気がした。

「てことで！体育館いくよー！」

「え、わっ！ちょ、離してください！」

「離したら逃げるじゃん」

「逃げますよ！」

そんなことを考えていたら手首をつかまれたまま引っ張られてしまう。男女の力の差なのか私の抵抗は全く効かず、そして驚いたのがこの阿部って人も結局笑って着いてくるだけだったのだ。

普通明らかに嫌がってる人がいたら注意するとか助けるとかするでしょ！

やはり頭のおかしい陽キャの友達は頭のおかしい陽キャなのか…と項垂れた。腕が痛いよ。

「やっほー！」

「やっほー…って、誰？」

連れてこられたのは水曜日以外にはほとんど足を踏み入れない体育館。そして奥の4人の男たちがたむろっている場所だった。

いかつい人に2連ピアスに…明らかに陽キャの集まりで身体が強張る。

やだよ～帰りたいよ～助けてよ～……

「サークル入る子！勧誘してきた！」

「だか、ちがうって……」

「勧誘？1年？」

「ううん同い年！建築のAちゃん！めっちゃダンスうまいの」

4人の男にジロジロみられて恐怖でしかない。未だに手首は掴まれたままで、逃げようとしても無理そうだった。阿部って人はクスクス笑ってるし……

「へぇ、佐久間がうまいって言うならすげぇんだろうな」

「いやまじで！みてほしい！」

「見せてよ」

床に座っている体の大きい人。そんな人にジロリと見られて声が出なくなる。いかつい…圧が……陽キャの怖さとはまた違った恐怖が……

思わず一歩下がって怖気づく。

「あははっ、佐久間待って。碧衣さん怖がってるよ。本当に無理やりなんだね？」

その恐怖の空気感の中、ずっと笑っていた阿部さんがやっと言葉を発した。