陰キャとさくまの水曜日 (ページ33)

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「室内で、ライトを浴びながらステージ上で踊るのもいいけど、こうやってコンサートホールみたいだけど外の空気が感じられたり、風に吹かれたりしながら踊るのもいいなって思って。私根暗だからさ、スポットライトよりもこっちの方が力まず楽しく踊れる気がする」

私は“誰か”を“自分”にした。

作る側だから勝手に自分以外を対象としてたけど。“誰か”なら別に自分でもいいんだって。自分の好きな建物を作ればいい。今までは評価されるってことを一番に考えて作ってたし、それのおかげで高評価貰ってたりもしたけど。

「外のステージってだけだったら沢山あると思うけどさ、全部正面からしか見れないでしょ。正面からじゃなく、後ろとか上とかいろんな角度で踊ってるのが見える。どこから見ても表現が伝わるようなダンスがしたいなって思ってたから。こういう場所じゃないと伝わらないよなって」

たまには康二くんが楽しそうに写真を撮るように自分も課題を楽しくやってもいいのかななんて。

一回だけ、技術とか知識とか評価とかを気にしないで“自分だけの特別な建物”を作ってみたかった。

「私、ダンスしてる時だけは陰キャから脱出できるんだよね。注目されても何故か平気なの。夢中で踊ってるからかな、その分それ以外の所は本当に暗いんだけど。見ての通り建築内で友達もほぼいないし、仲良く話せるのはバイト先の数人くらい」

陰キャな自分を否定してるわけじゃない。
無理に陽キャとつるむのは疲れるし。

けど、どうしても人と関わらなきゃいけない時、コミュニケーションが必要となる場面で何もできなかったり、疎外感を感じたりする自分には少し嫌気がさしていた。

自分って、そんなもんなんだなって。

「だから唯一自分が明るくなれる。輝けるダンスをする建物を作った。他人が輝く場所は私には作れなかったよ。だから勝負の自信はないけど、本気で作った」

きっといつもみたいに評価はされない。自分の事しか考えてないもん。教授の視点ではあまりよくない建物だと思う。講評を聞かないでおきたいと思うほどだ。

「……すっげぇ。Aちゃんすごいね、俺もここで踊ってみたい」

訪れた少しの沈黙を破ったのは佐久間くんだった。
いつもより落ち着いたトーンで、模型をじっと見ながら。

「俺専門的な事は全然分かんないけど単純にこの建物が好き。ここ行ってみたいもん。すごいね、Aちゃんって本当に表現するのが上手なんだね」