陰キャとさくまの水曜日 (ページ27)

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「ほえーこんな感じなんだ、ちっちゃな街が建設中だ」

「……私は工事に取り掛かってないですけど」

「でもいろいろ作ってるじゃん、すごいね。細かそ～」

実習室をぐるっと見渡していつもより少し小さな声で言う。数人だけが残り、模型が沢山あるこの場所で何だか浮いてる佐久間くん。建築、このくらい髪明るい人はあまりいないからな。

「この中に阿部ちゃんのもあるの？」

「いや、デスク向こうだからあっちにある。私も全然見てない」

「本番までのお楽しみかー、いいね」

その本番に私は間に合うのだろうか、周りと比べて明らかに進んでいない自分のデスク。今日教授に心配された。碧衣さんいつも早いのにって。

「すごいね、この数だけの建物が出来上がるんだもんね」

「…うん」

「自分が思い描いている自分だけの特別な建物を作るんだ。本物は大きいけど、模型ならそれができちゃうんだもんね。大変だろうけど技術があれば俺もやってみたい！わんちゃんが走り回れるような広い庭とかほしいなぁ」

自分だけの特別な建物。
確かにそうなんだけど、そんな考えなかった。

課題だから。評価されるため。
そんな風にしか思ってなかった課題をそんな目で見れるのか。この人は物凄いポジティブ。いや、ただ単純なだけなのか？

“一人一人にストーリーとか思い描いてる街とか建物があるんだなーって思ったら、その人達の頭の中覗いてるみたいでさ”

初めて学食に連行された時の佐久間くんの言葉が頭によぎった。

私の頭の中、ストーリー……

自分だけの特別な建物……

私だけの建物？私が思い描くもの？

「……佐久間くん、」

「え？えぇ！まって！初めて名前呼ばれたかも！！」

「え？」

「ちゃんと覚えててくれたんだねー！良かったぁ」

え、ごめん。
嬉しそうな表情に不覚にも申し訳なく思った。

でも確かに話すのが苦手なのを察してくれたのかほとんど佐久間くんが一方的に話をしてくれていた気がする。必要最低限しか話さない私が、これだけ会話を続けられていたのはそのおかげなのかもしれない。

「あ、で、何？」

「……いや、その。ありがとう」

「え？俺なんかした？」

「実はだいぶ苦戦してて…私、明らかに進んでないでしょ？でも佐久間くんの話聞いていい建物が思い浮かんだかもしれない」

そう言うと佐久間くんはちょっと驚いた表情を見せてから、花が咲くみたいににっこりと笑った。