陰キャとさくまの水曜日 (ページ18)

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「建築ってさー、すごいよね」

目の前のうどんに無言で向き合う中、ラーメンをもぐもぐしている彼は私がそばに置いていた図面を見て言った。

「なんか難しそうな図書いたりさ、でっかい模型作ったりすんでしょ。阿部ちゃんの見て大変そーって思って」

「…まぁ、それなりに」

「あ、でもAちゃん凄いんでしょ？めちゃくちゃ頭いい阿部ちゃんが凄いっていうんだから相当なんだなーって思って。ダンスもできて頭もいいのかぁ」

「い、いや……別にそんなでは……」

「俺バカだからさー、一回だけその頭借りてみたいわ」

急にめちゃくちゃ褒め出した彼にそんなに私をサークルにいれたいか？と警戒心が高まる。そんなんされると逆に意地でも入ってやんないとか思うんだけど。

「一回だけね、建築の展示？見に行ったことあんだけど。なんかすごかったわ、小さい街が沢山あるみたいで面白かった」

「まぁ確かに…」

「すっごい時間かかりそうだよねー、すげえや」

展示とかそういうものじゃないけれど、課題ごとに学科棟で模型を見て評価されるから一定期間はその場所に模型が置いてある状態になる。

この大学の生徒なら他学科棟だろうと自由に入れるしきっとそれを佐久間くんは見たのだろう。

「阿部ちゃんのしかちゃんとは見なかったけど、一人一人にストーリーとか思い描いてる街とか建物があるんだなーって思ったら、その人達の頭の中覗いてるみたいでさ。知識とかは全然ないけど見ててワクワクした！」

「……へぇ」

黙って彼の話を聞いていれば聞こえてきたのはそんなこと。口には出さなかったけど内心驚いていた。

同じ学科の人や教授は学年が上がるほど専門的な知識の観点や完成度を重視する。そういう思いを自然と汲み取る人はかなり長いこと見ていなかったから。

「また展示する？今度はAちゃんのも見に行くね～凄いっていうから気になる！」

少しだけ彼の印象が変わったかもしれない。ただのグイグイくる陽キャかと思ってたけど、少なくともバ先で騒いでる陽キャ大学生はこんなこと言わないと思う。

「……阿部くんの方が凄いと思う」

「えー？どっちも凄いでしょ！てか毎回僅差で賞取れないって言ってたよ？2人は良きライバルかぁ、次がますます楽しみだね！」

陰キャな私はそういう発言に素直にありがとうと言えるスキルは持ち合わせていない。照れ隠しでそんなことを言ったけど、阿部くんの模型をちゃんと見たことはなかった。