陰キャとさくまの水曜日 (ページ16)

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「勤務中に携帯見てるのダメなんだ」

「さっき目黒くんも見てたじゃん」

バイト中。相変わらずというか、今日はいつになく暇だ。

私が水曜に良くシフトをいれるのは暇だから、こうやっておしゃべりするだけで時給発生するんだもん。同じ考えみたいで水曜日のメンツは大体この3人だ。でも今日は康二くんがお休みらしい。

"ブロックしたら建築棟に毎日待ち伏せしにいくからね～"

そんなLINEが来ていたことに気付き、本当に強引だなと顔を顰めてトークルームを閉じた。返信なんかするもんか。

「うわ既読無視？」

「ちょっと、人の携帯勝手に見ないでよ」

「そんな嫌そうな顔して見てたら気になるっしょ。誰？」

その高い身長で私を見下ろす目黒くん。
無駄に足が長い、少し分けて欲しい。

「最近付きまとわれてる陽キャ」

「あー、やっぱナンパじゃん」

「友達になろうって言われた…本当にナンパじゃん」

「いいじゃん」

「どこが」

ため息をついた私に向かって楽しそうにそんなことを言う彼。周りにはいい子だって言われてるけど私たちの前じゃこんな感じだ。

「彼氏いるってはっきり言えたら客にしつこくされることも減るかもよ？」

「陽キャと付き合うくらいなら客の相手した方いいわ」

稼いでる時間とそうじゃない時間のどっちでも陽キャの相手しなきゃないんだったら稼げる方がいいに決まってる。仕事だって割り切れるし。

「大学の人なんでしょ？先輩とか？」

「同級生らしい」

「うっわーリアルだなぁ」

「はい？」

何だかワクワクしているようにすら見えるこの男。

「先輩とか後輩だとナンパって感じするけど同級生ってマジっぽくない？」

「やめて、私は客以外にそういう対象で見られないから」

「可愛いんだから愛想さえ良くすればモテると思うんだけどな、あ」

しれっと失礼なことをほざいてお客さんに向かって行った。愛想悪いのなんか分かってるっつーの、陰キャをなめんじゃないよとその背中を睨む。

席に通されたOLさんたちは今日もかっこいいねーってはしゃいでる。目黒ファンの常連さんだ。

「モテる男は大変ですね」

戻ってきた彼に嫌味も含めてこんなことを言った。ふふっと余裕そうに笑った目黒くんは腕を組んで私の隣に寄りかかる。

「大多数にモテるよりも身近な人に想われてる方が俺はいいと思うけどな、お前みたいに」

さーて仕事仕事と背を向けて歩く目黒くんが向かったのはスタッフルーム。サボるじゃん。