陰キャとさくまの水曜日 (ページ14)

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「……げ」

水曜日。何だかもう体が覚えてしまっているのか自然に足が体育館に向かっていた。入り口に向かうとかすかに音楽が流れているのが聞こえて。

そっと覗いてみたら先客がいた。

「あの人じゃん……」

佐久間くん、だよね。確か。
いつもの私みたいに一人で鏡に向かって踊っていた。

もしかして今日水曜じゃなかったりする？と携帯を確認したけどちゃんと水曜日。ダンスサークルの活動日じゃない。

え、また待ち伏せ？だって阿部くんが言っておくって……でも何を言ったんだっけ。なんか自分の中で勝手に入る気ないから付きまとうの辞めたらとか言ってくれてるもんだと思ってたけど。あぁそうか…別にそうとは限らないんだ……

「……すご」

そんなことを考えながら様子を見ていたら気づいた頃には彼のダンスに見とれていた自分がいた。メリハリがあってダイナミックな身体使い。でも繊細で滑らかな動きもすごく綺麗で、その使い分けやつなぎ方が凄く技術的。

魅せ方がうまい。

素直にそう思った。軽く踊ってるつもりなんだろうけど、それでも十分レベルが高いことは分かった。佐久間のダンスは凄いって阿部くんが言ってたな。

なんか、悔しいけど。

いきなり表れて連れていかれてしつこくサークル入れとか言う陽キャにこんなこと言うの悔しいけど。
ちゃんと凄い。

「あ！きた！」

「……あっ」

「ちょ、まって逃げないで！って俺毎回言ってんな！」

ぼーっとそのダンスを見てたらターンをして目線が横に向いた瞬間に発見されてしまったらしく。

それに気づくのが遅くなって今回も捕まってしまった。
あぁ、私どんくさい。

「こわい！待ち伏せ！」

「怖くないって！ね！一回来よう！踊りに来たんでしょ！」

ぐいぐいと手首をつかまれたまま体育館に連行された。
私の水曜日がまた潰されていく……

「これ！みたよ！」

「……あぁ」

彼が私に突き出した手には携帯の画面。
そこには懐かしいものが映っていた。

「このさ、ラストでフォーメーション三角形になってセンターになる子、Aちゃんでしょ？」

「え、何で分かるの…」

「この間ここで踊ってたよね？」

ステージ全体を映してて1人1人の顔が分からないから自分達くらいしか誰が誰だって分からないのに。ほんのちょっと踊ってるのをみただけの人が私をすぐ見分けるなんて。

片手でスマホを、片手で私の腕をつかんだまんまの佐久間くんがそう言って楽しそうに笑っていた。