子供と大人 ページ9
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兄の運転で向かった街の外れの更地にはもうすでに兄と康二が作ったのであろう飛行船が静かに佇んでいた。
天気は本当に雲一つの無い快晴。車を降りてすぐに飛行船に目を向けた康二は凄く誇らしげで、嬉しそうな顔をしていた。
「すごいねー！」
「あれに乗るんやで、凄いやろ？」
サクマはというと。飛行船の前に車に乗ること自体がとても楽しかったようで終始テンション高めだった。あぁそうか、この子は車も初めてなのかと妙に冷静にその姿を見てしまった私。
彼にとっては毎日が新しいことの連続。それを全力で楽しんでいる。
昔の私とは大違いだなぁ、って。
「A」
はしゃいでるサクマと康二が楽しそうに会話し始めた後ろ姿を眺めていると、車から荷物を降ろしていた兄が隣に並んだ。
「あの飛行船、康二の設計」
「あ…そう」
「初めてのね」
「初めて？今までもしてたじゃん」
「今までのは全部俺との共同。一から全部、ほとんどを康二が設計したのはあれが初めてなんだよ。だから気合も入ってるだろうし、乗ってもらいたかったんじゃん？」
気が付くと康二は飛行船の元に行って色々見たり確認をしたりと仕事モードになっていた。サクマは後ろからそれを興味津々に見つめている。
「……まぁ、あんな分かりやすくリアクションしてくれる人なら乗せたくもなるよね」
「ちげぇよ、バカ」
兄はそう言い放ち私のおでこを強めに突いた。筋肉野郎の力じゃ指一本でもよろけてしまう。そんな私を見向きもせずに兄は道具類を持って飛行船の方に歩いて行った。
「ほんっと扱い雑なんだから……」
・
真剣な様子で準備する兄と康二の邪魔になると、しばらく車のドアを開けた状態で座り待機していた。ぼーっとその飛行船と、そして二人と一緒に準備をしている関係者たちを眺めながら。
あー、あの人が工場に持ってきてくれるクッキーいつも美味しいんだよなぁ。父親の代からお世話になってるあの人は会うたびにAちゃんおっきくなったなぁと感心されるよなぁ。もう大きくなるところないのに。
部品工場の人や他の飛行船技師さん。その他うちの工場に関わりのある人たちが康二の作った飛行船に対して何かしら向き合っている。
「……大人になったんだな」
泣き虫で、寂しがり屋で引っつき虫で。そんな幼馴染が沢山の人を動かすような大人になっていた。
私だけが、子供のままな気がした。
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2022年12月2日 0時
