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「飛ぶよ、離陸んときは揺れるから座ってな」
ぽんぽんと私の背中を叩いて席に促した兄。サクマと共に窓際に座った私はさっきのように目線を空に向けた。
本当にこの塊が飛ぶんだろうか。今まで沢山飛行船を見てきて、実際に飛んでる所も見たことあるのに。何だか不思議な気持ちになってそわそわする。
「Aーさっくーん、掴まっときやー行くでー」
康二の声が聞こえた瞬間、飛行船に何らかの衝撃が走った。揺れだした機体の振動が身体に伝わってきて、思わず手すりをぎゅっと握る。
「……わっ」
そしてほどなくしてぶわっと体が浮く感覚が。
「ん？だいじょうぶだよー」
体が緊張状態になってしまった私に気付いたのかサクマが私の手を上から握る。彼だって乗るのは初めてなはずだ。なのに怖がるわけでもはしゃぐわけでもなくトントンと私の手を安心させるように動くその手。
明らかに落ち着いている。何なら車に乗った時の方がテンションが高かった。
「わぁ、すごいねぇ」
思わずその手を見つめてしまっていた。その間に空中へと浮かんだらしい飛行船、サクマの声で窓の外を見るとその景色はもう水色に染まっていた。
「わぁ……」
「すごいねぇ、綺麗だねぇ」
強張っていた身体はもう解けていた。サクマのやけに穏やかな声と安心させるように握る手がそうさせているのは否めなかった。
見たことのない目線の高さ、広がる青空と並走しているかのように羽ばたく鳥たち。街から離れているからか煙突は小さくしか見えなくて、そこから立ち込める煙や蒸気もほんの少し。少し下を見ると緑が広がっていて、機械の片鱗なんてどこにも見えなかった。
私が、行きたかった場所がここにあった。
「A」
「えっ、康二？運転は！」
「なにそんな焦っとんねん、照兄に変わったんよ。笑」
後ろから聞こえた声にヒヤッとした。康二のからかうような言い方はいつもならムカつくのに、今は心底安心してため息をついた。本気でビビってしまった。
運転席に見えたのはさっきより大きい背中。
「外出てみようや、めっちゃ綺麗やで」
康二が目線を向けたのは外のデッキに続く扉。今でも十分景色はいいけど、実際に外に出るとまた見え方が違うんだろうなと自然と好奇心が湧いた。
歩き出した康二の後に続き目の当たりにした扉は思ったよりも頑丈そうでしっかりとしたつくり。康二がぐっとその扉を引くと、ぶわっと風が私たちを包んだ。
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2022年12月2日 0時
