37話 ページ38
「是非?」
彼女の初対面の印象は、
少し頭の弱い方、でした。
当然でしょう、
噂を聞いてみすみすやってくるような、
それでいて締めて貰いたいなだなんて言うような、
何も知らない無辜の人魚。
彼女の印象が変わったのは、
そうですね、いつからだったでしょう。
彼女は今でこそ憎まれ口を叩きますが、
昔はむしろ彼女が
僕達に構いに来ていたような気がします。
いえ、間違いなくそうだったでしょうね。
聞けばあの頃、
彼女は回遊魚である両親と別れ、
知らない海に1人だったと言っていましたし。
いえ、彼女のそれは、
僕達が自分と同じく孤独だから、
という理由ではありませんでしたよ。
もしそんな感情が彼女に1ミリでもあれば、
僕たちは
そばに寄らせようとはしなかったでしょう。
「2人はこんなに面白いのに、
みんな知らないなんてもったいないね」
あの頃あの海にいた人間が聞けば
卒倒するか爆笑するでしょう。
彼女は笑顔でしたが。
今思えば、
世界を知る彼女からすれば、
僕達の世界なんて
しょうもないものだったのでしょう。
話が変わったのは、
それから数週間後でした。
「ほら、あの子。
例のリーチ兄弟と親しくしてるそうよ」
「親にも捨てられたそうじゃない?
やっぱり類は友を呼ぶのねぇ」
「ウチの子によく言い聞かせておくわ……」
「あ゛?」
その頃の僕たちは
もう随分と彼女に絆されていて、
学年は違ったものの生活を共にできるほどには、
親しくなっていて。
あの日は
今にも絞め殺さんばかりのフロイドを止めるのに、少々骨が折れました。
フロイドに殺らせると始末に困りますからね。
彼女は何も知らないかのように普段通りでした。
己らのせいで、とまで思いませんでしたが
まさか彼女にまで被害が及ぶとは思っておらず
僕もフロイドも少し悩みましたが
彼女が知るまではせめて一緒にいたいと
まぁ、それくらいには彼女を好意的に見ていた
ということです。
ある日、唐突に彼女はその事実を知りました。
旧友の心無い言葉で
僕達の目の前で
なんにも包み隠されず
彼女は自分の立場を知ったのです。
「だからお前とは仲良くしてやんねぇ!」
「親に捨てられた子なんだろ??
可哀想だな!!」
「っ、」
幼心に
フロイド止めなくてもいいと思いました。
僕も手を出すところでした。
「勉強も出来ないし泳ぐのも遅いし、
魔法もてんでダメ。
ついでに美形でもないしユーモアもない。
こっちが願い下げ。」
彼女のセリフを聞くまでは。
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作者名:よく骨を折る田中 | 作成日時:2020年6月30日 22時