第八夜 繰り返した夜 ページ10
そんなクロロの目から、Aは目を逸らせないでいた。どうしてなのか。なぜ、自分は…
この状況が、現実だと信じられるのだろう。気が付いたら雨の降る知らない場所にいて、見知らぬ男に着いて来て…
どうして、今目の前のこの青年に。こんなにも懐かしさを抱くのは。
「Aは…覚えていないだろうが、オレたちは…」
クロロが、言い出そうとするその台詞に、一同は息を呑んだ。
「オレたちは、昨日も会った」
「え……？」
彼女の、掠れた声だけが小さく聞こえる。
「昨日も、一昨日も、その前も、ずっと…。かれこれ、半年近くには…なるだろう」
クロロはゆっくりと語る。Aは、今クロロが言っていることが、全く以て理解できなかった。昨日も、会った？ その前も？ 会ったことが、ある、だと？
「さっきは別の世界と言ったな。そうだ。オレたちがいるこの世界と、あんたがいるそっちの世界は、違う」
「え、あの、一体何を」
「Aが元の世界で眠る間、その間だけ、あんたはこちらに来る」
だが、とクロロは続ける。
「なぜか、こっちに来たことをあんたは忘れてしまう。ここで起きたこと、ここで過ごしたことを、オレたちと会ったことを……元の世界で目覚めたあんたは、全て忘れてしまう」
だから、自分たちは繰り返してきた。何度も、何度も彼女との出逢いを。何度も言われた、『初めまして』を。
「Aがこの世界にいられるのは、夜の間だけだ。直に夜明けが来る」
気付けば、ほんの少し、暗闇が晴れてきたのが分かった。雨も、もう小ぶりである。
「夜が明ければ、あんたはまた、元の世界に帰ってしまう」
そして、また明日の夜、再びやって来たあんたにオレは言うのだろう。初めまして、と…
クロロは、彼女の目を見た。すっかり怯えの消えたその瞳に、ひどく弱そうな自分が映っていた。参ったな、自分はこんなまぬけ面をしていただろうか。仮にも、悪名高い幻影旅団の、団長を努めるこの自分が。随分と情けない顔である。
全てを聞かされたAは、ただ何も言うことができず、立ち尽くしていた。別の世界。見知らぬ者たち。そして、自分の記憶。
が、もし。彼の言うことが本当に、本当だったとするのなら。この懐かしさも、彼に何も不信感を抱かない自分も、この世界に違和感を抱かない自分にも納得がいく。
半年、近く。それほど長い間、自分はこの彼らと会ってきたというのか。
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作者名：アユミ | 作成日時：2018年11月15日 0時
