第二十四夜 今日を歩いて今日を思い出して ページ26
私は、何度も繰り返したこの出逢いで、クロロのことをどこまで知っているんだろう。ようやく思い出してきた記憶だって、それが全てじゃない。いや、思い出したというよりも、ここでの出来事を覚えられるようになった。忘れなくなったのだから。これから先、ここで起こること全て、自分の記憶に降り積もるとしても。
遠いあの日から、彼らがくれた思い出というものが、二度と私の中で目を覚ますことはない。
それが、とても悲しい。だからこそ、いつかこんな今日を思い出せるように、と微笑むクロロが、とても愛おしく思えたのだ。忘れても、忘れてもずっと待っていてくれた彼が。彼らが。
確かにもう二度と過去を思い出すことはできないかも知れない。でも…。
『いつか今日を思い出して』
でも未来を、これからは忘れないのだから。一秒一秒過ぎていく今が、思い出になっても。私は忘れない。忘れない、と誓った。だからこの先の未来で、彼を知っていきたい。そんなこともあったね、と昔を思い出して笑う未来をちゃんと作るから。
もっとちゃんと、あなたたちを見ていこう。クロロが歩んだ道を、話して欲しいの。これから、沢山知っていきたいの。
「じゃあ、クロロ…。これからも、沢山歩こう。皆で、一緒に歩こう。それで、昨日の話とか、一昨日の話しようよ。私…」
私、あなたのことをもっと知りたい。あなたがそこまで私を想ってくれていたのなら。私にも、絶対あなたを想う理由があるから。
「私、これからも、クロロと一緒に歩きたいの」
するとクロロは頷く。
「…そうだな、よし」
一緒に、未来を歩きたいの。
「一緒に、都を歩いてみるか。あんたがもう忘れてしまった他の町にも行こうか。商店街や、裏路地や、公園や…」
ふむ、とクロロは顎に手を充てて考える。
「思い返せばきりがない。…仕方ない。蜘蛛を移動しながら、色々場所を案内してやる」
ぽん、と頭に優しい手が乗る。
「ちょ、もう、子供じゃないんだから…」
「仕返しというヤツだな。ようやく、あんたを超すことができたよ」
仕返し…？ 超す…？
「仕返しってどういうこと?」
「そのままの意味だ。あれは結構、年頃の少年には響いたね」
また意味深なことを言うものだから眉間にシワが寄る。私の知らない過去の話だろうか。
「いつか、分かる日がくる」
そう言って、彼はもう一度、私の頭に手を乗せたのだった。
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作者名：アユミ | 作成日時：2018年11月15日 0時
