【Ｈ×H】長月のセレナーデ【幻影旅団】 (ページ13)

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第十一夜　日記をつけようページ13

そう思うと、彼らに申し訳なさを感じ、同時に言いようのない切なさに襲われた。

　何も信じたわけじゃない。ここが別の世界だなんて、未だに受け入れられないでいる。

　でも。

　忘れられる、ということはとても悲しいことだ。
「あの…」
「？」
　Aが徐に口を開き、彼らの視線がそこへ集まった。

「ペンか何か、持っていますか？」

　Aの台詞に、シャルナークがあるよ、とどこからかマッキーペンのようなものを取り出し持ってきた。それを受け取ったAは、子気味良い音と共にキャップを外すと、自分の腕の袖を捲り上げた。
「！？」
「ちょ、なになに」
「何をする気だ」
　シャルナークとクロロが声を上げる。

　Aは、よし、と意気込むと、キュッキュと何かを自身のその腕に書き出した。
「…なんて、書いたの？」
　シズクの問いに、え、とAが首を傾げる。
「ごめん、オレたちの世界の文字と、キミの世界の文字は、随分違うみたいだからさ」
　シャルナークの台詞に、そうなのか、と思いAはそれを暫く見つめると口を開いた。

「『日記を書きなさい。今日もあっちの世界で、クロロさんたちに会いました』」
　Aの読み上げたその内容に、全員が驚愕する。
「腕に書いておけば、朝起きた時に分かると思ったんです。こうして、毎日日記をつけていけば…。せめて、明日来る私が、今日あったことを思い出せなくても理解できるように」

　おぉ、と全員が感嘆の声を出す。
「さすが、Aだぜ…」
「発想がすごいな」
　いや、とAが笑う。しかし、そこでクロロが顔をしかめた。

「いいのか。こんな、目立つところに書いて…なかなか消えんぞ、油性は」
「だから良いんです。どうしても、明日の私に今日のことを伝えたくて」
　にこ、と彼女が小さく笑った。

「私、忘れたくないと思いました。どうしてかは、分からないけれど…。まだ、この状況だって信じ切れていませんし…」
　でも、と彼女。

「皆さんが、何度も私に会いに来てくれたと知って、もっと大事にしたいと思ったんです。皆さんのことを。名前や、顔や、何をしたとか、どんな話をした、とか。とっても、大切なことのように思えるから…」
　忘れないようにしたいです、と彼女は言った。

　その時、Aの頭にクロロの手が乗った。
「…？」
　ひどく優しく触れてくれるその手つきに、勿論嫌な感じはしなくって。くしゃ、とクロロのきれいな手が髪を撫でた。