【Ｈ×H】長月のセレナーデ 2小節目【幻影旅団】 (ページ5)

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白昼夢ページ5

｢……、｣
そうは言っても、なぜかその女は動じなかった。いくらこの街とはいえ、死が隣り合わせが日常なこの場所とはいえ、刃を向けられたら誰だって命乞いをしていたもんだ。

オレの殺意は、確かにこいつに向いている。けど、まるで届いていない。

簡単なモンなのに。こんな細い首をへし折ってしまうことなど。本当に自分が置かれている状況を分かってるのかな。

なぜか動じないその女の態度に、オレは辿り着けたかも知れない自身の正体のことなど最早どうでも良くなっていた。

なんで、死ぬかも知れないって時に、こんな阿呆な顔して突っ立っているんだろう。

暫く互いの顔を見合う状況が続いたのち、そいつはこう言ってのけた。
｢未来から来たって言ったら……どうする？｣

絹糸のように落ちた髪は、星の光を集めたかのように染まっていた。

今日さえ凌げば後はどうでも良かったオレたちにとって、未来という言葉はあまりに現実離れしていて絵空事のようにすら思えた。
けど、突然現れたAは、確かにそれを持ってこの場所に来ていた。

あの頃のオレたちにとって、Aは未来そのものだった。いや……それは今も。

A、お前はオレの明日だ。

今日しか生きられないオレたちにとって、あんたは…。

｢…未来って…なに？｣

オレがそう答えた時、Aは悲しそうに微笑んだ。

目が眩みそうなくらいの白い昼間。オレはその日、初めてAと出逢った。

それは決して交わることのなかった世界が初めて触れ合った瞬間。

そして、2度と覚めることない僕の夢。

＿＿＿＿この太陽は夜も輝いて導く
幻が踊る街に
さよならの鐘が鳴る