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Side Ymmt
幾ばくか時間が経った頃、電話越しにAちゃんは笑った。まるでいつも通り、くだらないお店の話をするかのように話し出す。
『いいの?私山本さんのファンなんだよ』
「あれ、僕のファンだったの、嬉しいな」
『そうだよ、なんかいろいろばらすかもよ』
「何度だっていうけどAちゃんはそんなことする人じゃないですー」
『私社畜だよ』
「いいよ。仕事好きなんでしょ。体壊さない程度に休んでほしいけど」
『私年上だよ』
「だから?」
『祥彰より背高いよ』
「僕は気にしてないし、僕が好きになったAちゃんも気にしないと思う」
『…祥彰さー』
ね、一緒に話すようになって僕だいぶAちゃんのこと知れたと思うんだけど。ふー、と長く煙を吐き出して、Aちゃんは徐に僕の名前を呼ぶ。
『私のこと大好きだね』
「ふふ、そうだよ。Aちゃんと話したくて煙草はじめるくらいには」
『…ほんとに言ってる?』
「ほんと」
僕はずっとずっと前にここから君を見た時から、君のことが大好きなんだよ。
『…私も好きだよ』
「…うん、知ってる」
『そう?…じゃあ、付き合おうか』
あまりにもすべてが自然だった。好きだというのも、Aちゃんが答えてくれるのも、付き合おうかってなるのも。まるで普段通り話しているうちに、奇妙な関係の僕らは、恋人に変わった。特別甘い空気でもなくて、かといってすべてがすべていつも通りではなくて、上手く言葉にはできないけれど、この瞬間は間違いなく特別だった。
「ねーAちゃん」
『んー』
「Aちゃんの淹れたコーヒーが飲みたい」
『お店で飲んでるでしょ』
「違うの、僕のためだけに淹れて」
『わがままだね?』
「いいでしょ、僕彼氏なんだから」
Aちゃんはじっと僕を見つめていて、そしてちょっと笑った。
『じゃあ、明日うちにおいで』
その言葉に他意はなかった。家にいけばAちゃんがあまり使わずにいるコーヒーを淹れるための道具を使えるし、隣で煙草を吸えるし、Aちゃんの笑顔が目の前で見れる。付き合った次の日に家に行くなんてどうなの、と誰かに言われようと関係ないよね。僕ららしくていいじゃないか。
「たのしみにしてる」
『うん、私も』
二人で笑って、また一緒に煙を吐く。Aちゃんは薄い白の向こうで、かわいらしい僕の大好きな笑顔だった。
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黄色い恐竜(プロフ) - 早瀬さん» コメントありがとうございます!私も書くことが自粛期間中の楽しみだったので、そう言っていただけて嬉しいです…!次回もよければぜひよろしくお願いいたします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - ぺりさん» コメントありがとうございます!私も大好きな二人をそう言っていただけて嬉しいです…次回はまた雰囲気が変わるかと思いますが、よければぜひよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - 孤黒さん» コメントありがとうございます!日常的な幸せって素敵ですよね…そう言っていただけて本当にうれしいです!ぜひこれからもよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 完結おめでとうございます!コロナで外に出れない憂鬱なこの日々の楽しみがこのお話でした!とってもとっても素敵でした…!!山本さんを幸せにしてくれてありがとうございます笑これからも素敵な物語を楽しみにしています! (2020年6月14日 23時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
ぺり(プロフ) - はじめまして!完結おめでとうございます!陰ながらずっと更新を楽しみにしておりました。山本さんが報われてよかったし、本当に好きな2人でした。次回も楽しみにしております! (2020年6月14日 22時) (レス) id: aef7fed343 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄色い恐竜 | 作成日時:2020年5月21日 21時