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Side You
「…ごめん」
『んーん。…ねえ、Aちゃん』
「…ん」
『こっちみて』
電話口でそのままずぴずぴ泣いて、やっと落ち着いてどうにかごめん、と一言絞り出す。彼は相変わらず優しい声で、私の名前を呼んだ。情けなくてあげられてなかった顔を求められて、恐る恐る彼を探す。家の光が漏れて、少し逆行気味だけど彼が笑ってくれているのはわかった。泣く私をバカにするんじゃなくて、慈しむような、といったら自意識過剰だろうか。
『かわいいね』
「…ばかなの?」
『それでもいいよ。…ね、そんなになる前に僕のこと呼んでね』
「…ありがと」
うん、と少し離れた彼はにこっと笑う。
『寝れそう?明日早い?』
「…んーはやい。オープン」
『そっか、じゃあ一緒に早起きだね』
「山本さんも早いの」
『んー、朝一番でお店行く』
だから僕のために寝坊しないでよ、って笑ってくれる彼はやっぱり優しい。
私も気づけば笑えていたし、今日の散々なこともまあいいかと思えていた。
彼のおかげだ、山本さんがいなかったら今頃どうなっていただろう。
「無理、しないでね」
『うん、Aちゃんもね』
「ありがと」
おやすみ、と言いあって電話を切る。
帰るのちゃんと見届けるから、というメッセージがすぐに来て、意外と心配性だなぁとちょっと笑いながら、お言葉に甘えて先に家に入る。その直前まで、山本さんは手を振ってくれていた。
…こんな女に構うくらいなんだから、山本さんも彼女さんとかいないんだろうな。どうしようこれで彼女いたら。修羅場にならない?…山本さんに限ってそれはないか。
脳内には、数回彼に呼ばれた「Aちゃん」という優しい声が残っていた。今思えば今日初めて呼ばれたわけだけど、あまりに自然で、そして心地が良くてぼーっと余韻に浸ってしまう。
「…寝なくちゃ」
もうだいぶ遅い時間。丑三つ時って言うんだっけ。
もう寝なきゃ。彼が来るんだから。
最後の優しい声と安心感のおかげか、ベッドに腰掛けた瞬間眠気に襲われた。
ぼんやりとする意識の中、スマホの通知と「おやすみ」という彼のメッセージだけ
どうにかとらえて、幸せな気持ちだけを抱きしめた。
「いらっしゃいませ」
あんなに話して情けない姿まで見せてしまったけれど、
ここではやっぱり店員とお客様。くすっと笑って、目腫れなくてよかったねというこの人に私も笑って山本さんは隈がすごいですよ、だけ返しておいた。
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黄色い恐竜(プロフ) - 早瀬さん» コメントありがとうございます!私も書くことが自粛期間中の楽しみだったので、そう言っていただけて嬉しいです…!次回もよければぜひよろしくお願いいたします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - ぺりさん» コメントありがとうございます!私も大好きな二人をそう言っていただけて嬉しいです…次回はまた雰囲気が変わるかと思いますが、よければぜひよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - 孤黒さん» コメントありがとうございます!日常的な幸せって素敵ですよね…そう言っていただけて本当にうれしいです!ぜひこれからもよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 完結おめでとうございます!コロナで外に出れない憂鬱なこの日々の楽しみがこのお話でした!とってもとっても素敵でした…!!山本さんを幸せにしてくれてありがとうございます笑これからも素敵な物語を楽しみにしています! (2020年6月14日 23時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
ぺり(プロフ) - はじめまして!完結おめでとうございます!陰ながらずっと更新を楽しみにしておりました。山本さんが報われてよかったし、本当に好きな2人でした。次回も楽しみにしております! (2020年6月14日 22時) (レス) id: aef7fed343 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄色い恐竜 | 作成日時:2020年5月21日 21時