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Side You
「おはよーございまーす」
適当に声をかけつつ、腰のサロンを巻きなおす。客入りは…まあまあか。ディナー混むかなぁ。それぞれの作業の進捗を確認し、この後どう動こうか考えていると、例の少しだけ声のボリューム調整が下手な彼女がにこにこしながら戻ってきた。
「AさんAさん」
「なんかあった?」
「あのお客さん、奥のフロアの角の席ですよ」
「…あっそ」
「今日はランチのセットでした!14時半ごろ来たからもうすぐ2時間ですね」
「はいはい」
「ドリンクは食事と一緒に出してます!」
「…あんた暇なの?」
「ひどいな、よくお客さんのこと見てるって言ってくださいよ〜」
「はいはいありがと、ほかに引き継ぐことは?」
山本さんのことを気に入っているのはあなたじゃないの、と思いながら業務的な連絡を交わしたのち、退勤時間だからとあげさせる。このままいても揶揄われる一方だ、別に揶揄われる関係でもないのに。
お会計を済ませたお客様を見送って、テーブルの上を片付けるために客席へ出ると彼女が言っていた通り、奥のフロアの角の席に山本さんは座っていた。何やら集中しているようで、真剣な目でパソコンの画面を見つめている。…かっこいいなぁ、なんて、ファンでもないただの一人の女の感想を持ちつつ、あんまり集中していて声をかけるのも憚られて、ただ遠目にも、パソコンの裏に置かれた店のカップの中身が少ないのがわかった。
…そういえば新しい種類のコーヒー豆が来ていた。
来月から扱うから試しておけって本社から連絡来てたっけ。時間もあることだし淹れてみよう。
私と、バイトと、…あと山本さん。…当たり前に彼のことを考えていた。
賄いのドリンクを入れたりするのにだけ使う、店の什器とは異なるカップがある。私の趣味で店に置いているようなものだけど、今日はどれにしようか考えるだけで楽しいし、飾っておけばインテリアにもなる。
いくつかある中から、濃い茶色のカップを取り出した。
爽やかな酸味があるそのコーヒー、山本さんは好きだろうか。いきなり置いてもビビるだろうし小さなメモを添えて、未だ集中して顔をあげない山本さんのテーブルにそっと置いた。
それから、いたって普通に仕事をしていた。
お客様がくればご案内をして、コーヒーを淹れて、お会計をして空いたテーブルを片付けて。
違うのは、合間に山本さんと目が合って、二人だけで小さく笑うこと。
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黄色い恐竜(プロフ) - 早瀬さん» コメントありがとうございます!私も書くことが自粛期間中の楽しみだったので、そう言っていただけて嬉しいです…!次回もよければぜひよろしくお願いいたします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - ぺりさん» コメントありがとうございます!私も大好きな二人をそう言っていただけて嬉しいです…次回はまた雰囲気が変わるかと思いますが、よければぜひよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - 孤黒さん» コメントありがとうございます!日常的な幸せって素敵ですよね…そう言っていただけて本当にうれしいです!ぜひこれからもよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 完結おめでとうございます!コロナで外に出れない憂鬱なこの日々の楽しみがこのお話でした!とってもとっても素敵でした…!!山本さんを幸せにしてくれてありがとうございます笑これからも素敵な物語を楽しみにしています! (2020年6月14日 23時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
ぺり(プロフ) - はじめまして!完結おめでとうございます!陰ながらずっと更新を楽しみにしておりました。山本さんが報われてよかったし、本当に好きな2人でした。次回も楽しみにしております! (2020年6月14日 22時) (レス) id: aef7fed343 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄色い恐竜 | 作成日時:2020年5月21日 21時