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Side You
期待して裏切られるのが怖かった私は、あれは奇跡だと言い聞かせつつ、結局期待をしてしまい、そして、彼はその期待に応えてくれてしまった。
こればかりはほぼ毎日店に居座り続ける社畜であったことに感謝せざるを得ない。
その翌週から山本さんは週に2回くらい、朝きたり夕方作業しに来たり、よほど気に入ってくれたのか普通の常連さんとして利用してくれている。
うちのポイントカード、来店毎に押してて10回で一杯無料にしている。このくらいの頻度で来てくれるのなら、一カ月ちょいでたまるだろうに。
そして私はまたほぼ毎日いる社畜の特権を活かしてしまうわけ。右上に小さく山本さんって書いて、4つくらい押しとこ。それを私が仕事中持ち歩く手帳に挟むことにする。
さて、それから1カ月ほど経ったころ。
この期間も定期的に利用してくれる山本さんは、私のことをよくいる店員として認識してくださったようで、ドアを開けて私の顔をみるとぱっと笑ってくれる。
…こんなことがあっていいのでしょうか。幸せです。
いつもありがとうございますと声をかけると嬉しそうに笑ってくれる山本さんが素敵すぎて正直仕事にならない。
この日のお会計で伝票を受け取ったとき、そういえばスタンプカードが埋まっていたことを思い出す。
何か急ぎなのかチラチラとスマホを確認している山本さんに、ちょっとだけドキドキしながら。
「ありがとうございます、お会計が250円です」
「え?」
きょとん、とそれこそ動画でみるような顔が目の前にあって変な感じ。でも、と私の手元の伝票と私の顔を交互に見つめている。
「実は、これ、代わりにためておきました」
カウンタ―に置いていた手帳から例のスタンプカードを出す。
「これ、初回でお話しなかったんですけど、全部ためるとドリンク一杯引き換えてるんです。山本さん、よく来てくださるのにもったいないなと思って。だから今日はこれで引き換えますね」
「あ、ありがとうございます。ていうか」
つい饒舌になりながら手元でお会計の操作をしていると、山本さんの不思議そうな声が聞こえた。
「…僕のこと知ってるんですか?」
…やってしまった。普通の店員でいようとしたのに。
でもここまできて知らないとは言えなかった。
「…すみません、あの、ファンでして」
何を言われるかと目も見れない私が次に聞いたのは。
「嬉しいです!ありがとうございます!」
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黄色い恐竜(プロフ) - 早瀬さん» コメントありがとうございます!私も書くことが自粛期間中の楽しみだったので、そう言っていただけて嬉しいです…!次回もよければぜひよろしくお願いいたします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - ぺりさん» コメントありがとうございます!私も大好きな二人をそう言っていただけて嬉しいです…次回はまた雰囲気が変わるかと思いますが、よければぜひよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
黄色い恐竜(プロフ) - 孤黒さん» コメントありがとうございます!日常的な幸せって素敵ですよね…そう言っていただけて本当にうれしいです!ぜひこれからもよろしくお願いします! (2020年6月15日 14時) (レス) id: f5683b3f6a (このIDを非表示/違反報告)
早瀬 - 完結おめでとうございます!コロナで外に出れない憂鬱なこの日々の楽しみがこのお話でした!とってもとっても素敵でした…!!山本さんを幸せにしてくれてありがとうございます笑これからも素敵な物語を楽しみにしています! (2020年6月14日 23時) (レス) id: 0963beb20e (このIDを非表示/違反報告)
ぺり(プロフ) - はじめまして!完結おめでとうございます!陰ながらずっと更新を楽しみにしておりました。山本さんが報われてよかったし、本当に好きな2人でした。次回も楽しみにしております! (2020年6月14日 22時) (レス) id: aef7fed343 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄色い恐竜 | 作成日時:2020年5月21日 21時