あの瞬間に。 (ページ2)

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「ね、Aちゃん、一瞬外行かない？」

騒がしい周りの中でトントンと肩をつつかれて耳元で囁かれたいつもより、ほんの低いその声に少し高鳴る胸を抑えて『いいよ？』と答えると満足そうに口角をあげて「いこ！」と犬みたいな笑顔で立ち上がった。

彼の後を追って外に出ると騒がしい店内とは打って変わって静寂な少し肌寒い空気に包まれて、「･･･これ着てな？」と着ていたグレーのパーカーをわたしの肩に掛けてくれた。

「今日は飲みすぎてないね(笑)」

「ねえ、いつも飲みすぎみたいに言わないでよ(笑)湧に止められたからね」

「ほんとAちゃんが酔うと大変なんだから」

「･･･すいません(笑)」

「うそうそ、かわいいからいいの。てかさっき、うちむと距離近かった」

サラッと「かわいい」と言う彼はきっと無意識、いや生まれ持った性格って感じ。パーカー貸してくれたのもただの彼の優しさ。誰にでもこんな感じだから後輩からも先輩からもモテるのに特定の彼女は作らない。それを知ってるから。

「えー近くないもん、颯太くんが勝手に来ただけ」

「いや、近かった」

「いいじゃん、いまも光輝くん近いもん」

「俺はいいの」

「･･･なにそれ(笑)」

お互いの肩が触れる距離、光輝くんの体温を感じられてなんだか暖かい。少しお酒も入ってるし、少しだけ、なんておもって光輝くんの肩に頭をのせると一瞬目を見開いて「･･･もー、ずるい」と静かな空気に呟いた。

そんなの、私のセリフなのに･･･なんて口に出そうか迷ったけどこの時間が一生続けばいいのに、なんて柄にもないことをお酒が回る頭でぼーっと考えてるうちに後ろからドアが開く音が聞こえて急いで頭をあげる

「･････A、明日一限だから帰るぞ」

振り向く視線の先にわたしの荷物を片手に持って立ってる湧がいた。

「黒ちゃんも風邪ひくから入りな、俺とAはもう帰るから」
「･･･はいはい、Aちゃん気をつけてね」

「うんありがと、湧いるし大丈夫」

「いや湧に気をつけてねって言う意味なんだけど(笑)」

「おいお前やめろ(笑)ちゃんとコイツ家に送り届けてさすがに自分家帰るわ」

「はは、そうしてくださーい、じゃあね湧とAちゃん」

ばいばーいと、手を振ってお店の中に入る光輝くんを2人で見届ける

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