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会場を出る頃には、辺りはもうすっかり暗くなっていた。
予定外に遅くまで出歩いてしまったけれど、それがこんなに充実していたなら文句はない。
タクシー乗り場まで一緒に歩き、学会頑張ってください、なんて言われてしまえば、もう十分すぎるくらいだった。
そんな、どこかふわふわとした頭で、離れていく黒尾さんの背中をぼーっと眺める。
背が高いからか細身に見えるけど、こうして見ると黒尾さんは結構ガタイがいい。大きな背中とか、筋肉質な腕とか。
スポーツ協会に勤めるくらいだから、黒尾さんも何かスポーツをやってたのかもしれない。
そういえば、試合中も何回か懐かしそうに笑っていた気がする。黒尾さんもあんな風に、コートで輝くような、そんな学生時代を送ってたのかな。
あの時の、高校時代の黒尾さんも。
そんな感傷に浸っていると、突然その大きな背中がくるりと振り返った。
「そういえば、なんですけど。
二度あることは三度あるってことわざ、知ってます?」
『?…はい。
物事は繰り返されるって意味、ですよね』
「そう」
突然の質問に頭をフル回転させて、頭の中で辞書をめくる。
全力でその問いの意図を探ろうとするけれど、今の混乱した脳内では論理的思考は成り立ちそうにない。大人しく黒尾さんの答えを待つことにした。
暗い上に少し距離がある。
わたしの返事に小さく頷いた黒尾さんの表情は分からない。
「この場合、繰り返されるのって、良いこと悪いことどちらでしょうね?」
『確か、悪いこと、だったかと』
「ご名答。さすが、よくお勉強されてる」
一体これに何の意味があるのだろう、なんて思いながら答えていく。
褒められて悪い気はしないけれど、意図が分からない以上複雑だった。
「つまり、こういうことです」
黒尾さんは少し声を弾ませながら、ピッと人差し指を真っ直ぐ伸ばした。
まるで、何かを諭すように。
「物事は繰り返されるから、原因をよく考察して、繰り返されないように気を付けなさい」
『え』
「ってね」
『……黒尾さん?』
「じゃーね、Aさん」
『え、あ、あの』
「二度あることは三度ある、らしいですから。
気を付けなさいね、おじょーさん」
戸惑うわたしをそのままに。
そう言ってまた離れていく黒尾さんの背中は、何だかとても懐かしく思えた。
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nameless - 1話1話読み進めていく毎に高揚感が募っていくような作品でした!またいつか、続きを楽しみにしております (12月20日 10時) (レス) @page42 id: e6c0ea655a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 水傘るんさん» 水傘るんさん!ありがとうございます!このシリーズに黒尾さんは必須!と思っていました!大人ですよね…!ありがとうございます頑張ります!! (3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 菜花さん» 菜花さん、ありがとうございます!彼らの大人時代はどんなのかなぁという妄想から始まった作品ですが、そう言っていただけて嬉しいです🍀💚今後もぜひよろしくお願いいたします! (3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
水傘るん(プロフ) - 面白すぎます........えっやばい。黒尾さぁん.....大人の男すぎますって....最高です....!!!無理されない程度に更新頑張ってください!!応援してます!! (2023年3月26日 2時) (レス) @page27 id: e67109cbac (このIDを非表示/違反報告)
菜花 - めっちゃ大人って感じのハイキューの小説が読めるとは…!と感激しています!スッと内容が入りやすくて魅了されるような文章で尊敬します!なんか上からですみません!応援してます! (2023年3月20日 3時) (レス) @page27 id: da77361163 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな | 作成日時:2023年1月20日 20時