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その言い方に違和感を覚えた。
何か、なんて分からない。断言はできない。
でも、確かに。
小さな小さな期待の種が、胸に植えつけられた。
「Aちゃんと飲むようになって、もう半年だっけ」
『もう、そんなになっちゃいますね』
「けどさ、俺らって、結構知らないことあんだな」
突然変わった声のトーンに、身体が震えた。
これは違和感じゃない。明確に、声が変わった。
ふざけるような声でも、こちらを試すような声でも、のらりくらりと惑わす声でもない。例えるなら、どこか拗ねたような、甘えるような、幼い男の子のような声。
初めて聞く、黒尾さんの感情が全面に乗った声だった。
そうですよ。わたし達、知らないことだらけなんです。
あの日、音駒高校で初めて会った日から黒尾さんがどう過ごしてきたのか。あの日、どうしてあのイベント会場にいたのか。どうして今、ど毎週会ってくれるのか。
黒尾さんは、わたしをどう思っているのか。
知りたいのに、ずっと聞けないことばっかりなんです。
言葉が喉まで出かかって、そのまま何かによって押し戻されていく。
さっき感じた違和感が、どんどん形を作っていた。小さな期待が、ふくらんでいた。
「アイツの方が知ってんのかなって、なんか、俺のAちゃん獲られた気分だったわ」
通りかかった車のライトで、黒尾さんの顔が照らされた。
黒尾さんはいつものように、眉を下げて笑っていた。今までによく見た表情なのに、その中に、何かを感じてしまって。
もう、期待だけが残っていた。
『黒尾さん…それって』
「なぁ、Aちゃん」
ヤキモチ、ですか。
そう聞くより先に、黒尾さんはわたしに手を伸ばした。
長くて綺麗な指が、そっと目尻に触れた。
ひんやりとした冷たさが、期待に溢れた熱を冷ましていく。
黒尾さんの右の口角だけが、器用に上がった。
初めて黒尾さんに会った、あの日と同じ。
それでも、この10年で、間違いなく何かが進んでいた。変わっていた。
「……明後日、俺とデートしよっか」
触れた指が小さく震えていることに、やっと気づいた。
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nameless - 1話1話読み進めていく毎に高揚感が募っていくような作品でした!またいつか、続きを楽しみにしております (12月20日 10時) (レス) @page42 id: e6c0ea655a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 水傘るんさん» 水傘るんさん!ありがとうございます!このシリーズに黒尾さんは必須!と思っていました!大人ですよね…!ありがとうございます頑張ります!! (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
さな(プロフ) - 菜花さん» 菜花さん、ありがとうございます!彼らの大人時代はどんなのかなぁという妄想から始まった作品ですが、そう言っていただけて嬉しいです🍀💚今後もぜひよろしくお願いいたします! (2023年3月31日 19時) (レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
水傘るん(プロフ) - 面白すぎます........えっやばい。黒尾さぁん.....大人の男すぎますって....最高です....!!!無理されない程度に更新頑張ってください!!応援してます!! (2023年3月26日 2時) (レス) @page27 id: e67109cbac (このIDを非表示/違反報告)
菜花 - めっちゃ大人って感じのハイキューの小説が読めるとは…!と感激しています!スッと内容が入りやすくて魅了されるような文章で尊敬します!なんか上からですみません!応援してます! (2023年3月20日 3時) (レス) @page27 id: da77361163 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さな | 作成日時:2023年1月20日 20時