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落ち着かせるように、小さく息を吐いた。
「仲間っつーか、あの人は先輩だよ。
そう言ってくれてんのは有り難ぇけど、俺にとっちゃ何よりもまず先輩で、それはこの先も変わんねぇ」
それは間違いなく俺の本音だった。
悔しさから、茂庭さんのことちょっと貶めるようなこと言ってやろうかとか、変なことも一瞬考えたくせに、結局俺はあの人を悪く言うことができない。
酒のせいかすんなりと口に出た自分の言葉で、より一層、優しくて包容力のある茂庭さんと自分の違いが際立つ気がして、また悔しさが出てきた。
俺達の関係を羨ましいと言ったコイツは、俺の気持ちなんか微塵も分かっちゃいないと思うと、それもまた悔しい。
黙ってこっちを見るAを睨んだのは、八つ当たりみてぇなもんだった。
「……んだよ」
『いや、ちょっとびっくりして』
「何が」
『先輩とか、そういうの大事にするタイプなんだなって』
「喧嘩売ってんだったら喜んで買うけど？」
棘のある言い方をした俺に、Aは楽しそうに笑った。
いつも先輩らに言うようなこと。
いつも先輩らにされるような反応。
それなのに、今はどうしてか決まり悪く感じて目線をそらした。
「いや、まじで、別に大事になんかしてねぇよ。
世話んなったし、あの人達がいた有り難みっつーか、存在の大きさをただ理解してるだけ」
『それもすごいと思うけど』
「すごくもねーよ」
そう。すごくなんかない。
問題児の俺らを、やっかいがりながらも、あの人達はずっと面倒みてくれてた。高校生なんて面倒な時期に、面倒だった俺らを、ずっと。
そこまで考えて、ふと我に返った。
酒の勢いとはいえ急に恥ずかしくなって、ごまかすように少し残っていた日本酒を一気に煽る。
『二口くん、は』
「あ？」
店員を呼んで水を頼んでいる時に、テーブルの向かいから小さく呼ばれた。
Aは俺を、正面から真っ直ぐ見ていた。
俺が”いい”と思った、あの瞳で、俺を真っ直ぐ見ていた。
『二口くんは、やっぱり優しいね』
その瞳を見ながら、そういえば初めて名前を呼ばれた、なんてどうでもいいことが頭に浮かんだ。
一人になった帰り道。Aの言葉が何度も何度も脳内で繰り返された。
別に貶されたわけでもない。嫌味でもない。
純粋なものだと分かるからこそ、どこかスッキリしない。
深く吐き出した息は、やけに白かった。
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さな(プロフ) - 柴田んぬさん» 柴田んぬさん、ありがとうございます！楽しんでいただけるように頑張ります！ (2023年1月22日 22時) (
レス) id: ee78dfa46a (このIDを非表示/違反報告)
柴田んぬ - このお話すごく好きです！応援しています^^ (2023年1月22日 16時) (レス) @page5 id: 8796ade977 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さな | 作成日時：2023年1月20日 18時
