2話: 渡会和音 ページ4
「おい、かずー。もう教室着いてるぞー。もうすぐでHR始まるぞー」
繋いでいた手とは反対の手で、渡会 和音の幼馴──榎下 廻がぺちぺちと彼の頬を叩く。和音は大層不機嫌そうに顔を歪め、おもむろに目を開けた。
「うるさいな……。
あと5分寝かせてって言ったでしょ……」
彼の言葉に廻はため息をつく。
「それ、毎日言ってるよな。……それとも、
おはようのキスが欲しいのか?」
「やだ」
「即答かよ」
和音は欠伸をしながら教室のドアを開けた。
「……後でね」
「えっ、後でキスしてく──」
ガラガラガラ。
言い終わる前にドアをしめ、さっさと席へと向かう。教室は依然として騒がしく、和音が教室に入ってきたことには目もくれずに楽しげな会話が繰り広げられていた。
機械的に机の横にバッグをかけ、本日第4回目の睡眠を決め込もうとそのままうつ伏せになった。
目を瞑った途端、HR開始のチャイムが鳴り担任の教師が入って来た。担任は欠席がいないことを確認し、今日の日直を確認する。
「日直は……渡会か。
おい、渡会、号令しろ」
数秒後、和音は気だるそうに顔を上げた。
「…………起立」
彼の合図にクラスメイトは立ち上がる。
「礼」
おはようございます、
と生徒が挨拶し各々席に着く。
「今日の連絡はー、あー、そうだ。今日から体育祭の練習が始まるからな。あんまり無理するんじゃないぞ。じゃー、解散」
担任の言葉を合図に一気に教室は騒がしさを取り戻した。担任が一言か二言残して、和音の机に日誌を置き去っていく。
彼はその間もうつ伏せのまま動こうとしない。その心には体育祭への鬱憤を密かに募らせていた。
体育祭。運動があまり得意ではない和音にとっては憂鬱なイベントだ。やだ、やりたくない、汗かきたくない、寝たい、だるい──とにかく怠惰な感情だらけの彼にはやりたくない行事ナンバーワンにあたる。
そこまで考えてばっと顔を上げた。
「はぁ、永眠したい……」
「永眠?」
顔を上げたらなんとそこには幼馴染の顔が。しかし彼は対して驚きもせずそのまま頬杖をつく。
「廻、俺を驚かせようとしても無駄だからね」
「別にー? 驚かせようとしてないし」
「お前がいると俺の睡眠の質が下がるから
さっさとどっかに行ってくんない?」
「んー、キスしてくれたら考える」
「……ここじゃ、ムリ」
「後なら出来るってこと?」
和音は目を伏せて、頷く。
「……ふふ、そうか」
廻はその反応に満足そうに目を細め
上機嫌に自分の教室へと消えていった。
「……あいつがいると調子が狂うんだよ」
そう呟いて再びうつ伏せになった。
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なるせ(プロフ) - 更新終わりました! (2019年5月6日 16時) (レス) id: af1a978d4d (このIDを非表示/違反報告)
なるせ(プロフ) - 更新します! (2019年5月6日 15時) (レス) id: af1a978d4d (このIDを非表示/違反報告)
櫛鉈(サブタブ) - 更新終わりました (2019年5月5日 22時) (レス) id: 045ecd0b94 (このIDを非表示/違反報告)
櫛鉈(サブタブ) - 更新します! (2019年5月5日 21時) (レス) id: 045ecd0b94 (このIDを非表示/違反報告)
京将(プロフ) - 更新しました。ギャグ要素が抜けてしまった…! (2019年5月2日 15時) (レス) id: 8bab4445ef (このIDを非表示/違反報告)
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