55話 ページ8
私のマークは結城だったが、今日の彼は魂が抜けていた。
顔の色はまるで紙だったし、先生の怒号もまるで耳に入っていない様子だった。
加えて私の調子が良かったので、今日は物凄く活躍した。
「ナイッシュー!」
試合を終えてから、心愛とハイタッチを交わす。
「ロングめっちゃきめるじゃん!」
「調子よかった」
「ご謙遜を〜」
私は少し笑ってから笑みを消して小声で言った。
「結城の落ち込みようはひどいぞ」
「あー、うん。あたしも思った。幽霊みたいだよね」
結城の方に目をやると、彼はぼんやりと座り込んでドリンクを飲んでいた。
その彼を、春原さんが慰めている。
二人で同時に目を背けた。
「お疲れ。全体的に健闘したな」
深淵先生の褒め言葉に、スタメンの皆はにこにこする。
「という訳で、マーク相手にシュート入れられた本数×5往復してこい」
ブーイングが沸き起こる。
なにが「という訳で」だ。
だが私は走らなくて済む。
結城は一度もシュートを決めていない。
4人が走りに行ってしまったので、私は大人しくシューズを脱いだ。
先生は私を見下ろして言う。
「お、A。珍しく走ってないな。手空いてるなら片付け手伝え」
くそっ、嫌味っぽい。なんだ珍しくって。
脱ぎ終えたバッシュを揃えて、私はホワイトボードを運んだ。

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