「荒海の神子」(肆) ページ40
少年は、広い湯船の端っこの方で、一人湯に浸かっていた。
海水で冷えた体が熱い湯でじんじんとする。
もう充分かな、と思って少年は腰を上げて湯から出た。
そこで唐突に入り口から紙人形が飛び出してきたので、少年はひっくり返りそうになる。
ビクビクしながら紙人形を見下げる。
紙人形は真っ白で清潔な湯上がり手拭いを、少年に差し出していた。
「あ……どうも」
恐る恐る受け取ってから、芯まで温まった体を拭く。
脱衣場に移動し、用意されていた服に袖を通した。
着込んでいる最中、ふわっと、豊かで、爽やかで、甘い花のような香りが少年の鼻翼をくすぐった。
「良い匂い……」
気持ちよさそうに、少年は目を蕩けさせた。
少年の着替えが完了したと見た紙人形は、引き戸を開けて少年に手招きをする。
手拭いを首に巻くようにして肩に掛けてから、少年はいそいそと紙人形に付いて行く。
途中すれ違う貴族や従者達が投げてくる物珍しげな視線に耐えながら、紙人形の後に続いた。
そうして辿り着いた先は、Aの部屋の目の前。
「えっと……Aさん」
呼ばれたAは、微笑みながら少年をじっと見つめた。
Aのその温かな瞳が、不思議なことに少年の心を軽くする。
「さっぱりしましたね。湯加減はどうでしたか？」
「とても、温まりました」
少年はちらりと庭の方を見た。
竹竿に掛けられた少年の衣服を、紙人形達が団扇でパタパタ扇いで乾かしていた。
その輪の中に、少年をここまで案内した紙人形も参加する。
「服は洗濯しておきました。直ぐ乾きますからね」
そう告げてから、Aは少年に手を伸ばした。
「……！」
少年の脳が勝手に、自分に向かってくるAの手を、海辺の村の人々の手に変換した。
怯えて少年は身を竦ませるが、構わずAは少年の肩に掛かった手拭いをそっと掴む。
手拭いはAの手によって少年の頭に被せられた。
ゴシゴシと強く擦ったりせず、ポンポンと撫でるように、Aは少年の髪の水分を拭き取っていく。
「ちゃんと拭かないと、湯冷めしてしまいますよ」
「すっ、すみません……！」
優しい笑顔と声にこそばゆさを感じ、少年の頬が自然と熱くなる。
されるがままの少年は、Aに見惚れながら、ぼんやりとこう思った。
なんて、綺麗な人なのだろう……。
今着ている借り物の服と同じ良い香りがする……。
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イズモ(プロフ) - 茶々丸さん» わ〜ご愛読ありがとうございます！！…荒の声優さんに念を送ってもらいましょう！(平安京ラジオ) (2019年9月23日 18時) (
レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
茶々丸 - 一年経っても見させてもらってます！荒来てくれえぇぇ！大歓迎だぞぉぉお！ (2019年9月23日 10時) (レス) id: 65a910c7b3 (このIDを非表示/違反報告)
イズモ(プロフ) - 横ごりらさん» ！！確かに！荒って何か…自分のこと好きじゃなさそうな気がするんですよね…伝記でもどっちかと言うと人間より自分を責めてる感があるように思えますし…どれも個人意見ですが(´-ω-`)こちらこそ、荒のこと語り合えて楽しかったです！ありがとうございました！ (2018年9月11日 21時) (レス) id: 2950d60cf9 (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» ｢愚か者め！｣｢愚かな･･｣とかもよく言ってますが、｢愚か｣って、自分自身にも思っててよく使う言葉なのかな･･とも思いました>< いえ！とんでもないです！またイズモさんのお話を聞けてとっても嬉しいです！(^///^)お返事くださり有難うございました！ (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
横ごりら(プロフ) - イズモさん» 私も想像になってしまいますが、もしも叱ってくれているのだとしたら本当に優しいですよね･･･常に無表情で厳しい言動の裏では、本当は自分以外の存在をいつも気にかけてくれているのかなと思えます(；_；)いっそ本心から見下して関わらなければいいのに･･(；_；) (2018年9月11日 9時) (レス) id: 72764b205c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：イズモ | 作成日時：2018年6月30日 20時
